盗賊達の働きぶり
近いうちにハイランダーとの交渉に向かう予定を立てているオルライト。
その一方で先日労働力として雇った盗賊達の様子も見ておく事にした。
元盗賊とはいえ何も出来ないというわけではない様子。
どの程度働けるのかという事でもある。
「バルカ、この前の盗賊達はどうかしら」
「ああ、オルライトさん、思ってるよりずっと働いてくれていますよ」
「そう、なら様子はもう少し見ておいてね」
とりあえず様子はもう少し見ておく事に。
自分の目で見るというのも大切だと考えているからだ。
「あ、きちんと働いてるみたいね」
「姉さんじゃないですか、ええ、しっかりと働いていますよ」
「その姉さんっていうのはやめて欲しいんだけど」
「何を言ってるんですか、俺達に真っ当な仕事や家を提供してくれた時点で恩人ですよ」
「なんにしてもきちんと働いているならいいわ、休みもきちんと取るのよ」
他の仕事場も見に行く。
村に入っているドワーフやエルフ達からもその評価を聞いておく事にした。
専門的な人達からの評価の方は。
「ねえ、盗賊の人達はしっかりと働いてくれているかしら」
「あ、オルライトさん、ええ、思っているよりもきちんと働いてくれていますよ」
「そう、力仕事以外でも役に立ってる事とかある?」
「盗賊になる前は農業をしていた人もいるみたいで、知識がある人もいますね」
「なるほど、思ってる以上に知識のある人がいるって事なのかしら」
エルフが言うには元農家の盗賊もいるようで、きちんと役に立っているという。
どうやら家が貧しく、農作物で食っていけなくなり盗賊に下った人もいるようだ。
そうしたところから昔は真っ当に働いていたが食えなくなった人もいるみたいである。
「少しいいかしら」
「はい、なんでしょう」
「あなたの家って元々は農家だったりしたの?」
「そうですよ、ただ裕福ではなかったです、野菜も安い時になると収入が変わりますし」
「取引価格というやつね、盗賊に堕ちたのは稼ぎが大きく減ったタイミングという事かしら」
元盗賊が言うには野菜は豊作すぎると価格が落ちてしまうという。
その一方で不作になるとその分値段が上がるので、収入もまた難しいとか。
それは需要と供給の話であり、農家の稼ぎはそうした市場に大きく左右されるのだと。
「野菜の取引価格の関係は分かったけど、そこまで稼げないものなのかしら」
「そうですね、多い時は1000万以上ですが、少ない時は300万とかです」
「そんなに収入に差が出るのね、市場価格の影響を感じるわ」
「それもあって嫌になっちまったんですよ、税金で結構持っていかれますし」
「盗賊に墜ちるのも理由や事情がきちんとあるって事なのね」
そうした話を聞くと盗賊に墜ちる理由の複雑さも感じる。
稼ぎもそうだが、税金の関係もあり手元には思っているより残らないと。
税金という仕組みが存在する以上お金の問題は貴族のオルライトの想像以上なのだ。
「でも収入の話以上に特に都会の食はそうした農家や漁師に支えられているのよね」
「労力の割に税金を引いた手取りが割に合わないって感じた事は何度かありますね」
「そこは難しい問題よね、ただ私も税金を納めなきゃいけないから」
「なんにせよ今度こそ真っ当に働きますよ、少しは現実も知って欲しいですしね」
「分かったわ、期待してるわよ」
そんな盗賊の事情も様々なのだろう。
昔は真っ当に働いていたが、税金という仕組みが生活に直結する。
どんなに大金を稼いでも税金で結構な額を持っていかれるのだと。
「ここでも働いてるのね」
「あ、姉さん、ええ、まさか子供の時に憧れてた仕事が出来るとは思ってなくて」
「もしかして服を作りたいとか思ったりしたの?」
「はい、家では下の子供達の服を作ったりしてたんで」
「それでなのね、意外と器用だし、きちんと形になってるのが凄いわ」
昔は家の子供達に服を作ったりしていたという人までいるようだ。
ヴィクトリエルでそんな服の仕事をさせてもらえているのが信じられないとも。
ヴィクトリエルの技術者曰く思っているよりずっと上手いとのことらしい。
「貧しいなりにいろいろ工夫はしてたのね」
「ええ、それがまさか服屋で働けるなんて嘘みたいですよ」
「でも役に立っているなら何よりね、勉強さえきちんと出来ればもっと上手くなりそう」
「とりあえずプロには及びませんから、まずは手伝いから勉強させてもらってます」
「そう、ならしっかり勉強して役に立つのよ」
厳しくはあるがどの仕事もしっかりと教わってそれを学んでいるようだ。
元盗賊とはいえ家の事情などから身についたものを持っている人がほとんどだ。
それは海沿いの地方都市な感じの領地だからこそなのかもしれない。
「どうでした?」
「みんな事情があって、盗賊になってもそれは貧しさが理由な人ばかりなのね」
「その問題も解決していけるといいですが、考えていくべきでしょうね」
彼らは貧しさ故に盗賊に堕ちたのがほとんどだ。
それでも盗賊になる前は真っ当に働いていたり夢があったりした。
そんな叶わぬ夢と環境が嫌になり盗賊に身を落とした。
この村で働く事はそんな夢をもう一度見るという事なのかもしれない。




