悩めるシェフ
村の発展もかなり進み移住者もかなり増えた。
そんな今の季節は夏であり、村にも涼しさを求める人は多い。
冷たい料理やデザートなんかはこの季節はよく食べられるもの。
そんな中村を巡回していると、どこか悩みを抱えてそうな人を見つける。
「あら?あの、何かお悩みですか」
「ん?ああ、ちょっとそんな感じなんです」
「悩みなら少し話ぐらいは聞きますよ」
そこで悩んでいたのは恰幅のいい男性。
何か悩んでいたようで、少し気晴らしにこの村に来た様子。
「えっと、それで何かあったんですか」
「ええ、少し仕事で行き詰まりまして」
「仕事で?何をしてる人なんですか?」
「そうですね、その前に何か食べ物のお店とかありませんか」
「食べ物のお店ですか?なら案内しますよ」
食べ物のお店に行きたいという男性。
オルライトはとりあえず村の食堂に案内してみる事に。
そこで男性は適当な料理を頼んで美味しそうに食べている。
「それで悩みっていうのはなんなんですか」
「ええ、先日ちょっとお客さんに不評を買ってしまいましてね」
「お客さんに?何をしている人なんですか?」
「王都の少し立派なレストランのオーナーシェフなんです」
「へぇ、オーナーシェフ、凄いんですね」
その男性は王都の少し立派なレストランのオーナーシェフらしい。
先日客から不評を買ったらしく、それで少し悩んでいたようだ。
とはいえ彼は客が注文した料理をただ出しただけでもあるという。
「でも不評だったんですよね?」
「ええ、それはそうとこの料理どれも美味しいですね、使ってる食材とかも素晴らしいですし」
「気に入りましたか?」
「ええ、庶民的な料理なのに、どこか懐かしいというか」
「でも気に入ってくれたのなら嬉しいですよ」
男性は村の料理を気に入った様子。
そこで他にもいろいろ注文して、それらを全て綺麗に平らげていた。
村の料理は、村で作っている食材などがあるから美味しいのではあるが。
「庶民的な料理でも美味しいって言うんですね、貴族相手のレストランなんじゃないですか?」
「ええ、ですが貴族というのは基本的に舌が肥えているので」
「自信を持って出した料理も不評を買う事もそれなりにあると」
「そうなんです、でも私はこれでも王宮のシェフも輩出したようなところで学んでいるので」
「厳しい世界というのは理解した上でですか」
男性はそれこそ有名な料理学校で学んだ過去がある。
それは王宮のシェフも輩出したような名門だ。
それでも舌の肥えた貴族には必ずしも好評になるという訳でもない様子。
「何かと大変なんですね、料理人というのは」
「あの、ここの料理の食材はどこのものなんですか」
「基本的には村で作っているものですけど」
「この村で作っているんですか!?」
「ええ、他の領地から人などをスカウトしてきて土地を広げて作ってます」
男性は村で作っているという事に驚いている様子。
実際村は当時に比べ大きく発展したからこそだ。
そこで野菜や果物を育て、食肉用の家畜を育て、海からは魚を獲る、村の発展の一環である。
「いろいろ試行錯誤してるんですよ、だからこそなんです」
「あの、この村の食材を仕入れさせていただく事って出来ませんか」
「仕入れですか?まあ輸出なんかもしているので、出来ますけど」
「なら食材を買わせてください、値段は言い値で構いませんので」
「分かりました、では交渉は領主館でお願いします」
男性は村の食材を買いたいという。
そこでその契約は領主館でするという事にした。
元々輸出なども計画の一部なので、何も問題はない。
「それで料理は気に入ってくれたんですか」
「ええ、ですが知らない料理ばかりだ、異国の料理だったりするんですか」
「まあそんな感じのものもありますね」
「異国の料理、それを学ぶのもまたありかもしれませんね」
「料理というのは美味しいというのは前提ですからね」
男性も異国の料理には興味を示したようではある。
未知の料理というのはそれだけ衝撃を受けたのか。
美味しい料理とはいつの時代も人を感動させてきたのかもしれない。
「でもオーナーシェフでも庶民的な料理に感動したりするんですね」
「寧ろ自分の見ていた世界の狭さを感じましたよ」
「勉強になったという事ですか」
「ええ、庶民的な料理であってもここまで美味しいのですから」
「なるほど、やはり実際に食べると違うものなんですね」
そんな男性はどこかすっきりした顔になっていた。
悩みも吹っ切れたという事なのかもしれない。
そんなわけで食材の契約をする事に。
「では食材の契約に行きますか」
「はい、お願いします」
「ではついてきてください」
そんな悩んでいたシェフはどこかすっきりしていた様子。
未知のものに触れるというのはいい経験なのか。
食材の購入契約も終えて、明日には王都に帰るという。
貴族の舌はやはり肥えているものなのだろう。




