芸術の難しさ
春も流れ行き少しずつ季節が変わりゆく暖かな日。
そんな中先日オルライトの下に行商がやってきたものの、何か買う事はなかった。
ただその行商が売っていたもの自体には興味を示した様子。
それについてその手のものに詳しそうな人に相談する事にした。
「ねえ、ディミトリアス、あなた確か貴族の家の人よね」
「ええ、一応はそうですが」
「少し相談があるんだけど」
ディミトリアスに何やら相談を持ちかけてきたオルライト。
それはなんなのか、とりあえず簡単に説明をする事に。
「という事があったのよ、それについても考えてるんだけど」
「なるほど、芸術ですか、それを売る行商が訪ねてきたと」
「ええ、その時は何も買わなかったんだけど、芸術関係も施設とか必要だと思う?」
「そうですね、まずオルライト様は芸術というものをどのようにお考えですか」
「芸術、そうね、見て楽しむもの、または誰でも芸術家になれるかもしれないものかしら」
オルライトの考える芸術とは見て楽しむもの、または誰でも作れる可能性のあるものという。
それはつまり絵や彫刻に限らず、文学なども含めて芸術と捉えているのだろう。
ディミトリアスもそれは間違っていないが、肝心なところが抜けているとも言う。
「そういうディミトリアスはどう思っているの」
「私は芸術とはお金がかかる趣味だと思っています、見るにしても作るにしても」
「お金がかかる趣味、それについては私も否定はしないけれども」
「基本的に芸術とは誰かに師事する事で覚えるものです、美術館なども無料ではないですし」
「なるほど、だとしたらもっと身近なものという認識を持たせるところからになるのかしら」
芸術とは覚えるにしても見るにしても無料で出来るものではない。
王都には出版社や美術館もあるが、デビューについては狭き門だ。
だからこそもっと身近で、気軽なものという認識にする必要もある。
「もし芸術を身近なものにするとしたら、どうするべきかしら」
「そうですね、まず門戸を広げてその上で多くのプロの目に見てもらうしかないかと」
「なるほど、ならまずは門戸を広げるところからなのね」
「はい、その中から目に留まった作品がもしかしたら売れるとかはあるかもしれませんね」
「そうね、確かにそれは面白そうな話だわ、だとしたらまずは展示する場所からかしら」
オルライトは芸術作品を展示する場所をまずは確保する必要があると考える。
その上で有象無象の素人の作品を展示し、目の肥えた人に見てもらう。
そこから売れたり本になったりすれば門戸は確実に広がるという事になる。
「ただ門戸は広がっても、そこから売れるのはごく一部なんでしょうけど」
「それでも見てもらう事が大切ですよ、オークションでも見に行ってみては?」
「芸術品のオークションね、王都でたまにやってるけど、実際どうなのかしら」
「本物であれば鑑定書がついているはずですから、それで見分けられるかと」
「鑑定書、なるほど、それが本物の証拠になるのね」
本物には鑑定書がつくとディミトリアスは言う。
ただそれは絵や彫刻の話であり、本に関してはまた別だという。
本に関しては今でも持ち込みを受け入れている出版社はあるのだとか。
「ただお金がかかるのは、道具を揃えなきゃいけないからというのは壁が高いわよね」
「そうですよ、だから芸術はお金のかかる趣味だという理由の一つなんです」
「誰かに師事するにしても、その工房に授業料なりなんなりのお金を払わないとだし」
「まあ道具が安く手に入るようになるところからですかね」
「道具を揃えるところからというのが門戸を広げても難しい理由、難しいわね」
芸術とはまず道具が必要な趣味でもある。
見るだけならともかく、作るとなれば道具を揃えねばならない。
出版社への持ち込みでも展示場への展示でも、作らなければ始まらないのだ。
「お金の問題はどうしても大きいわね、そこをどうするべきかしら」
「それに芸術はあくまでも趣味の側面が大きいですからね」
「それはそうね、まずはやってみようっていう気にさせないとなのかしら」
「考え自体は悪くないと思いますが、門戸を広げても敷居が高くては無意味ですからね」
「あー、敷居の高さもあったのね」
ディミトリアス曰く門戸を広げても敷居が高くては意味がないという。
それはつまり気軽に挑戦する事が出来る環境という事だ。
道具を揃えたり、見るにしても気軽に見れるなどの敷居の低さが必要になる。
「とりあえず意見は参考になったわ、ありがとうね」
「いえ、芸術関係は複雑なものですから」
「門戸を広げて敷居を低くする、よし」
何かを考えついた様子のオルライト。
芸術関係はお金がかかる上にあくまでも趣味である。
ただ夢のある世界であるのもまた事実。
そんな素人の作品であっても目に留めてもらう方法を考えねばならない。




