向こうは年末
すっかり春の陽気になり眠気が襲ってくる事もあるオルライト。
それもあり仕事の際に眠くなる事もしばしば。
とはいえそれでも仕事は減ってくれないのが辛いところだ。
眠くなるのは春の宿命、春眠暁を覚えずという事なのか。
「フユの世界だと今は冬なのよね」
「もう年末だよ、もう少ししたら新年だからな」
「そっちはもうそんな時期なのね」
冬夕の世界では今はもう年末である。
なので学校はもう休みになっているし、仕事も休みである。
「そっちの世界の年明けってどんな感じなのかしら」
「そうだな、言うなら大掃除やってあとは正月は初詣とかそんな感じか」
「ふーん、初詣ってなんなのかしら」
「神社にお参りに行ってそこでいろいろやったりとかかな」
「なるほどねぇ、そっちの世界だとそういう文化があるのね」
冬夕の世界の文化はそんな感じである。
正月の料理といえば餅やそれを使った料理、あとは蕎麦などがある。
おせち料理は元々保存食なので、それも一種の文化なのかもしれない。
「でも新年の料理だと美味しかったりするのかしら」
「うーん、まあ年越しそばなんかは割と好きだぞ」
「年越しそば?」
「そうそう、そばの実を使って作る麺料理な」
「そばの実、以前教わったやつね、ガレットに使うあれの事よね」
こっちではそばの実といえばガレットを作るのに使うもの。
蕎麦という麺料理は遠くの国にはあるらしいとは聞いている。
村でもそばの実は育てているので、それを使った料理もあるという事だ。
「でもお蕎麦ね、そっちのお正月はそういうものを食べるのね」
「ああ、尤も正月は店も閉まる事が多いからな、保存食なんかが多くなるんだよ」
「保存食、商店が休みになるから日持ちする料理がメインになるのね」
「でもおせち料理もそんな美味いとも思わないんだよな、保存食だからなのかな」
「特別な日に食べる料理なんてそんなものだと思うわよ」
オルライト曰く特別な料理はぶっちゃけそんな美味しくもないと思っているらしい。
そういう料理は意味があるものではあるが美味しいものではないという事。
なので美味しいかどうかはその人次第なのかもしれない。
「でも商店が閉まるのも新年だからって感じがするわね」
「割と最近までは元日から店やってるとかあったんだけどな」
「フユの世界の人って新年早々働いたりするのね」
「まあ今は普通に休むようになった店も多いけどな」
「新年はやっぱり休みになってこそよね」
新年早々から働くというのも割と最近まであった話。
今は休みになる店もきちんと増えてきている。
冬夕の世界の新年は何かと慌ただしいものだ。
「でもフユの世界の新年って面白そうね、私も経験してみたいわ」
「和服とか意外と似合いそうだよな、オルライトは」
「とはいえフユの世界って宗教的な理由で揉めたりしないのかしら」
「そんな事は特にないな、結婚と葬式が別の宗教の形式とか普通だし」
「ふーん、そういう事で揉めないのは少し羨ましいわ」
宗教的な形式に則るというのはこっちの世界では割とある事。
なので新年もそうした感じになる事が多い。
オルライトも新年はそんな感じになるのだという。
「でも年越しにお蕎麦を食べるっていうのは面白いわね」
「要するに願掛けだよな、おせち料理も使われる食材にきちんと意味があるし」
「つまり食材にも何かしらの意味があって使われてるって事なのね」
「そうだな、エビは長寿のシンボルだし、数の子は子宝に恵まれますようにとかな」
「へぇ、そういうのはちょっと興味深いわね」
おせち料理の食材にはそれぞれ意味がある。
正月の料理はそうした意味があるものが多い。
願掛けというかそんな感じでもあるのだろう。
「でもそんな美味しいっていう事でもないんでしょ」
「アタシは少なくともそこまで美味しいとは思わないな」
「文化的な理由はあるけど、美味しいとまでは行かないのね」
「まあ好きなもんは好きだよ、かまぼことか伊達巻は美味いと思うしな」
「美味しいものもあるにはあるのね」
そんな冬夕の世界の正月の事情。
今は大晦日が目の前に迫っている時期らしい。
師走は何かと忙しくなりがちなものだ。
「とりあえず面白い話が聞けてよかったわ」
「異世界だと文化も違ってくるしな」
「お蕎麦というのも興味深いし、お昼はお蕎麦にしましょうか」
そんなそばの実の使い方も異世界では違うもの。
そばの実は基本的にはガレットに使うものである。
尤もそれを使う料理自体は他にもあるが。
蕎麦というのは異世界でも結構ウケているらしい。




