k-528
俺には夢があった。遠い遠い過去、自分がまだ何者でもなかった頃の記憶。
中学の部活の帰り道、俺は冬の夜空に瞬く星々を見上げ、白い溜息をつきながら一人家路についていた。
当時の自分にとっては学校という狭い世界が全てだった。勉強運動芸術だのと全ての能力が数値化され、そんな競争ストレスや僻み妬みから来るものなのかはわからないが、イジメのようなものが自分のまわりでも横行していた。
ジャイアンみたいな大男がイジメられっ子の足を掴んでジャイアントスイング! みたいなわかりやすいものから、陰口悪口のようなドロっとしたものまで。
自分の両親祖父母は本当に善人でしかなく、小さな頃は世の中の人間は全員心が綺麗なんだと思っていた。でもそんなことはないと知ったときのあの絶望ったらなかった。大人からしたら可愛いものなのかもしれないけど、あの頃の自分にとっては恐怖の対象でしかなかった。
俺は恵まれている日本人なので、戦争だとか飢えだとか、そういう類のことに対してリアルに感じることができなかった。だが世界を学び、歴史を学び、今起きている戦争のことを学び、自分の周りにいる人間の汚い部分を見た後、世界の見方が180度変わった。
人間はちっとも綺麗なんかじゃないし、どこまでも利己的で人間同士で殺し合う生き物なんだと。自分はこれからそんな世界で生き抜いていかなければならないのかって、子供ながらに絶望したのを今でも覚えている。
それでも夜空に輝く星々を眺めていると、この広い宇宙のどこかには綺麗な世界がきっとあるんじゃないか、なんて、そんな夢みたいなことを妄想する自分がいた。
俺は孤独だった。夜空の星々に夢を馳せるしかないほどに。
それからの俺は環境に抗うこともできず、ただただ息を潜めて社会の言いなりになるしかなかった。苦しくて苦しくて仕方なかった。何をすれば良いのかもわからぬまま、ただがむしゃらにもがき続けるしかなかった。
だけど今、あの時星々に願った夢をもう一度追いかけることができているのではないか。
俺は遠い遠いどこか別の世界に来てしまった。確かにたどり着いた先の世界もまた、自分が夢を馳せた理想の世界とは程遠かったのだけれども。
でも俺が一人でもがいていると、周りにどんどん勝手に気の良い仲間が集まってきた。何か良くないものに全員で抗い、今もなお皆んなで理想のようなものをかかげてどこかに突き進もうとしている。
……俺はきっと今、奇跡の中を生きている。
転移の青白い光が視界から徐々に消え、目の前にゆっくりととんでもない光景が広がっていく。
それを見た俺は不覚にもそんなこと思ってしまい、体を打ち震えさせていた。




