冒険王バーデン・トールズの手記
私は世界でも困難と言われた冒険に挑戦し続けいつしか冒険王と言われるようになった。
しかしここでは私がした失敗談をしたいと思う。失敗談から得られる教訓は多いので、特に冒険者の諸君には最後まで読んでほしい。
ある日私は土鬼人の国より東へ向かった海域に、船乗りが絶対に近寄らない魔の海域が存在するという話を聞きつけた。そこには魔物が守るだけの財宝が眠っているに違いないと踏んだ私は魔の海域へと向かうことにした。
魔の海域には、人の方向感覚を狂わせる海の魔物たちの力によって精神系結界魔法がかけられていた。ここに常人が一度立ち入れば決して外に出ることは叶わないに違いない。事実魔の海域は船の墓場と化していた。あちこちにアンデッドとなった幽霊船が彷徨っていた。
だが幸いにして我が船団には森人の精霊魔法使いがいた。幽霊船の仲間入りという事態だけは避けることができた。
魔の海域の中心部に達した我々は海の底へと目を向けた。夜になると海底の光が天に抜けるという伝承があったがその通りだった。
森人の魔法によって守られた船は海の中を突き進んだ。
そして我々は海底へと達した。
海底には不思議な神殿があり、足を踏み入れると中には空気があった。
しばらく歩くと特に敵や罠もなく、宝物殿に辿り着き、拍子抜けした。
だがその油断がまずかった。
宝物殿には目が眩むほどの金銀財宝が眠っていた。そして何より目を引いたのは祭壇に浮遊している槌の存在だった。おそらくあれは伝説の…。
そのと瞬間、巨大な影のようなものが動き我々を襲った。
最初何が起こったのかわからなかった。黒い影は次々と我々を殺戮した。命からがら宝物殿を出た私を、その影はじっと見つめるばかりで、追ってこようとはしなかった。
結局私は宝物殿の宝を諦めるしかなかった。
冒険王たる私でも踏破不可能な冒険があったという事実を恥をしのんで記す。それは、いつか後進たちが私を超え、この冒険を成し遂げてくれると信じているからである。
全冒険者よ、困難に命を賭すことを誉とする者たちよ、臆するな、挑め!!
冒険王バーデン・トールズ




