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イトシノユリナに戻った俺は、サラサやジュノ、キシュウ先生、ホワイトさんといった幹部メンバーを城の会議室に集めて昨日考えたことを話すことにした。俺は出産を終えたユリナさんとエルザにも領の運営メンバーに加わってもらうことにした。
今俺たちには心から信用できる仲間が一人でも必要だ。
ターニャはまだ学校に通うべき年だけど会議に参加させている。ユリナさんにぴったりくっついて眠たそうにしている姿を見ると、遊ばせてあげられなくてごめんという気持ちになる。だけどこれはターニャ自身を守るためでもある。
他にも会議には神樹ククノチ様を守るため神樹の泉に戻っていたシルベストさんにも来てもらった。俺と契約したシルベストさんはテイムホテルに話しかけると遠くにいても会話ができ、テイムホテルの中にはシルベストさん側から自由に出入りできるて、俺の元に移動できる。
また、ガンド王国にある地下遺跡「知恵の間」発掘の総指揮をとってもらっているデルムンド氏にも来てもらった。現状、どんなテクノロジーがどの程度使えるのか把握しておく必要があったからだ。デルムンド氏は知恵の間発掘の総指揮に就任した時点でヴォルフスザーン領所属の扱いになっていて、利益供与することを見返りにガンド国王とも話はついている。
「よし、全員集まったな。これからの行動の方針はおおまかに3つだ。武力強化、ラフィットを油断させる、知恵の間テクノロジーで経済圏を作ってラフィットを締め出す、だ」
俺は昨日小屋で考えたことを黒板を使ってプレゼンした。俺とターニャの現状のステータス、現状把握しているテクノロジーだとこういうことができて有効だ、という話を。
「反論、意見はないか? 些細なことでもいい、指摘してくれ。特にシルベストさんには戦う方法のこと、デルムンドには今知恵の間の発掘状況はどうなっているかも込みで発言してほしい」
シルベストさんがふんすと鼻息を吹く。
「我から一言いいか。そもそも魔王と言われている存在のことだ。あやつらは邪神の加護を受けているが故、超常の力を得ておる。それを打ち破るためには神の加護を受けた勇者が最大の力を発揮する必要がある。そしてそこの小娘はまだまだ力を十分に使いこなしているとは言えぬ」
「そこの小娘」と目を向けられターニャは目をぱちくりこ。
「我らフェンリルには神獣合身という契約主との間だけで使える秘技がある。まずはそれを会得せねばお話にならぬ。我と契約していた先代の主も会得していたし、神の武具を身につけて戦っていた」
色々と新情報が飛び出たな。俺はターニャがもつ宝剣デルムンドがギデオンの障壁を破れず粉々に砕け散った光景を思い出していて。武器も能力もどちらも十分じゃなかったということか。
「神の武具とはなんだ? ひょっとして神鉄オリハルコンのことか?」
鍛治師のデルムンドが間髪入れずに質問した。俺もそのことが気になっていた。
「そうだ。神竜グラシエス様の牙や神樹ククノチ様の古枝すなわち神の体の一部を我らの爪と一緒に神槌で鍛えることで得られる神の金属だ」
「っ〜〜〜〜!!!! ねえ、まじ? まじ?? てかさ、遺跡から神槌ミョルニルの文献が出てさ、これ見ておくれよ! 海底神殿のある場所が書かれていたんだよ!!! これもう、確定じゃん!?」
デルムンドが声にならない声をあげ、マッドサイエンティストさながらの大はしゃぎ。同じく鍛治が本職のマルゴも腕組みをしながら鼻息を荒くしている。最強の神の武具と聞いて、鍛治師が興奮しないわけがないからな。
マルゴと一緒にデルムンドが持ってきた文献を覗き込んでみると、そこにはバーデンなんちゃらっていう冒険王とやらが森人の魔法の助けを得てとある海域の海底神殿の宝物庫にたどり着いたが、宝物庫の守護者に太刀打ちできず逃げ帰ったという記述があった。そこにはしっかりと冒険王は台座に浮かぶ神槌ミョルニルを見た、と書いてあった。
「こりゃ、当たりみたいだな」
と髭をジョリジョリとさすりながらマルゴが言ったのだった。




