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ジュノ率いる領軍部隊が捕らえたテロリストどもは全員、麻薬「パープルヘイズ」で精神をコントロールされているようだった。拘束した一人が奥歯に仕込んだ毒を飲み自害したので、その後は捕えると同時に解毒ポーションを無理やり口に突っ込み自害を防いだ。
捕らえたテロリストどもから情報を引き出した後は、ラフィットへの偽装工作として表向き自害したことにし、土精モンスター・ツッチーが発見した領内にある鉱山での労役刑を課す予定だ。我がランカスタ王国では各領主にある程度の法の裁量権が認められており、我が領では安易に死刑が執行されないような運用がなされている。
他にも王国法の運用を変えたところだと、例えば「貴族の馬車を遮ったら子供でも問答無用で斬り殺されるルール」は廃止にしたとかがある。主に俺の心の平穏を保つためである。
さて今後のラフィットへの対応だけど、ラフィットに限らず商売人たちの行動原理には「儲かりさえすれば何でもいい」というものがある。そりゃ「三方よし」は理想だけど、世の中綺麗事だけで回っているはずもなく。新卒新入社員の頭でっかちに肥大化した社会人の理想が入社早々打ち砕かれるのは、もはや日本の春の風物詩と言ってもいいだろう。
まあ、だからと言って俺の元上司のように「嘘ついてでも石炭を売れ」と号令をかけるのはどうかと思うけど……。大口の取引先にはイケメン・美女の担当者を当てがい、耳ざわりの良い言葉で籠絡したりプレゼントや接待攻撃をしかける。エネルギー関連の商品は大口だと一本の請求書が10億円を超えるので、接待費やプレゼント代などは余裕でペイでき、粗悪品を掴ませても取引先の担当者は個人的に利益を得ているわけだから強くは出られない、というカラクリだった。
その他にもエグい商売の例として、地雷除去装置を作っている会社が実は地雷も作っていたなんて冗談みたいな話があるくらいなのだけれど、そのようなマッチポンプ企業を探せば日本でも割と実はまだその辺にゴロゴロ転がっている。
とまあ実際のビジネスなんて綺麗事だけではまわってない。もちろん金のために悪人に成り下がるなど論外だが、商売には多かれ少なかれ「清濁併せ持つ」ことが必要となる。
つまり俺には、幸か不幸かラフィットの「濁」の部分の思考プロセスを理解できてしまう。ならば対処もできよう。
現状強大な勢力圏を誇るラフィットへの対抗策としては、表向き「うちも「濁」側ですよー」とアピールして油断を誘いつつ、こちらも勢力圏拡大を狙うのがいい。
では具体的に「濁」の部分を偽装するとして、何か策はあるのだろうか。




