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「ちなみにシーナさんの麻薬中毒が完治したことは、まだラフィットにはバレてませんよね?」
「はい。中毒者のフリは続けていますし、今回トラキアの潜伏者からパニックヒュドラワーム召喚の情報が流れてきたことからも、まだバレてはいないかと思います。私の妹も使い物にならないからとスラムに放置されるような有様でしたので、こちらに移したことすら認識していないかと」
彼女はいずれはバレるでしょうが…、と付け加えた。
「とりあえずはまず潜伏者の情報を教えてください。そいつらを捕まえないといつまた何をしでかすやら。そいつらを見分ける方法なんかもあれば助かります。街に入れなくて済みますから」
彼女に紙と町の地図を渡すと、潜伏者の特徴や潜入場所を次々と書いていった。見分ける方法もバッチリで、手首にそれとわかるマークがあるそうだ。
その情報をもったジュノは、捜査本部に詰めていた兵士たちと一緒に一斉に街に飛び出していったのだった。とりあえず町の方は大丈夫そうだ。
「今後のことですがシーナさんには、トラキア側のスパイを演じつつ、ラフィット陣営の情報をこちらに流す、いわゆる “二重スパイ” の役をお願いしたいと思ってます。もちろんリスクに見合った報酬はお支払いしますし、妹さんの身の安全は保障します」
「貴方にはご恩を受けてばかりです。そもそも最初からケイゴ様の陣営に加わるつもりで今回通報しました。それに私はあのクズ野郎が許せません。おっと、口汚くなってしまいましたね。失礼を」
おほほ、と口に手をやるシーナさん。女を敵にまわすべきではないと、改めて認識する俺であった。
まあ、姉妹揃ってこれまでずっと麻薬漬けにされたのだから、彼女の「許せない」という言葉には説得力があるな。彼女を信じて任せても大丈夫だと俺の勘が告げている。
「それではよろしくお願いしますね」
俺とシーナさんは固い握手を交わしたのだった。
「ちょうど良い機会だし、サラサにお願いしていたトラキアに関する調査結果を聞いて、シーナさんのもっている情報との照らし合わせなんてできるか?」
とサラサを見ると。
「ええ、そうくるだろうと思って用意してあるわ」
サラサが手を叩いて合図。すると彼女の部下たちが次々と羊皮紙の束と大きな移動式黒板を応接室に運び込んできた。黒板には大まかな世界地図と情報がびっしりと書き込まれているようだった。




