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イトシノユリナに来たジョセフィーヌママ、店のお姉様方、サラサ、エルザの両親を妊婦たちに引き合わせた後、彼女らはすぐに産気づいた。
何もできない男どもは熊のようにウロウロし、女性陣はどっしりという構図はもはや出産時の見慣れた風物詩。ちなみに俺は前回に引き続きラマーズ法の指導に忙しく、熊のようにウロウロしている暇などなかった。
そしてユリナさん、サラサ、エルザの三人は無事出産を終え、領立病院を退院することになった。
今回三人が産んだ第二子は全員女の子だった。うちの娘はネム、マルゴとサラサの娘はヴェーラ、ジュノとエルザの娘はクロッカと名付けられた。
お淑やかな名前を付けようと思っていたことから思いついたのが音夢だった。マルゴとジュノの娘の名前は、二人から名付けの相談をされたときに俺が提案したものが採用された。
マルゴの娘には第一子がゲイル(風)だったので、風と対を成す ‘帆’ の意味を持つ言葉の【ヴェーラ】という名を。ジュノの娘リンちゃんの妹になる女の子には、同じ ‘鈴’ の意味をもつ【クロッカ】という名をつけさせてもらった。
ユリナさんがネムを産んだ後、どこから聞きつけたのか、ゲルニカ陛下、バイエルン様、アルペンドレ男爵、その他複数の貴族が病院に押し寄せ、やれ許嫁がどうのと見るに堪えない争いを始めたのだからたまらない。
どうやってお引き取り願おうかと悩んでいると、キシュウ先生の肝が冷える一喝で貴族連中は顔を青くして退散していった。病院内では権力者よりも権力のある医者。キシュウ先生おそるべし。
ただ、陛下たちが去り際に「ネムちゃんの首が座ったらまた……」と言い残したのが気がかりだ。産まれたばかりの娘が、知らない間にどこぞのドラ息子と結婚させられないように目を光らせておく必要がある。
だがまあ相手が心根の優しい相手なら検討しないこともない。政略結婚とは聞こえは悪いが、貴族に嫁ぐことが一概に不幸であると断ずるのもいかがなものかと思う。娘を溺愛するあまり婚期を逃すみたいなことも十分ありえるので、気をつけないと。
そろそろ0歳児相手に何を心配しているのだというツッコミがきそうなので、この辺にしとこう。
変わったことといえば、駅絡みでいくつか。
レスタ・イトシノユリナ間の移動が便利になったことで、うちの従業員たちが頻繁に行き来するようになった。料理や商品の共同研究、品評会を開いたりとか。
駅の使用について、うちの従業員は必要経費。仕事で行き来しているのは当然だ。社割も適用され、彼らが私用の場合は通常片道銀貨5枚のところ、銀貨3枚で利用できることになっている。
駅とレスタの間に馬車の定期便が走るようになったそうで、人の出入りが激しく、最近ではチャトラやマヤも軌道に乗るまでジョバンニさんの商店の手伝いをしているのだとか。テイラーさんに依頼した建築物以外にも、小屋の周りに金の匂いに敏感な商人連中が建物を建て始め、賑わっているらしい。
お互いの住民が気軽に観光や商売に行き来できるようになり、景気が明らかに良くなったとはサラサの言だ。
孤児院の子供達も遠足と称して、お互いの教室を入れ替えみたいな試みも始まっている。
さらに出産騒動と並行してヴォルフスザーン領立大学を設立した。規模はまだまだだけど校舎の建築は済ませ、書物の収集、先生や事務員の採用なども始めた。
今は建築、医学、商業学科しかないが、今後はもっともっと色々なジャンルの学科を増やして人材育成をするつもりだ。
建築学科の先生をブラードさんに兼任してもらっており、気軽に行き来できるようになったことで、建築士志望の人たちが建築学科に入学してくるようになった。
医学学科はキシュウ先生にお願いしており、忙しい合間を縫って座学の授業や、病院での実地研修を行ってくれている。
勉強はできるけどお金がない子供には、タダで学校に通えるように助成金を出すことにした。それによって孤児院から領立大を受験する子供もちらほら出てきた。
3基の瞬間移動装置の運用が始まり、今のところ滑り出しは順調。知恵の間ではさらに色々便利そうな装置が見つかっており、実社会への投入時期を検討中だ。
とりあえず次は、陛下に許可をとって王都に駅を作りたい。




