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シーナさんはラフィット氏の手紙を預かってきたとのことだった。
山小屋で別れた後、二人は一度トラキアまで戻ったそうで、今は次の任務が与えられるまで待機していたとのこと。
シーナさんから手紙を受け取った俺は、それに目を通した。
……
親愛なるケイゴオクダへ
魔王ギデオン討伐失敗の件は部下たちから聞いた。まずはこちらの不手際を謝罪させてほしい。魔王側の情報に踊らされてしまったようだ。本当にすまなかった。
ギデオン討伐の件だけど、こちらでも別のスパイを聖教国に潜り込ませて次の攻撃の機会を伺うことにした。有益な情報があればまたキミに知らせるよ。
次は絶対に踊らされるようなヘマはしない。協力してギデオンを倒そうじゃないか。
今度またキミが気に入ってくれた酒でももって、そちらに伺わせてもらうよ。ではまた!
ラフィット
……
ラフィット氏の手紙には謝罪の言葉と、今後のことが記されていた。
「あとこれは主人からの贈り物です」
そう言って、シーナさんは俺の目の前にボトルに入った例の紫色の酒を置いた。
「ありがたくいただきます」
シーナさんは酒の入ったボトルに目が釘付けとなっており、明らかに飲みたそうにしていたので、棚からグラスを人数分出して注いだ。
ジュノとホワイトさんは仕事があるのか軽く口をつける程度にとどめ、俺も礼儀として飲んだふりを。この酒、かなり効くので正直苦手なんだ。シーナさんはそれを一気に飲み干していた。よほど喉が渇いていたのかもしれない。
「さてじゃあ、俺はラフィット氏への返事を書くことにするよ。時間がかかるだろうから、ジュノとホワイトさんは一旦持ち場に戻って夕刻またここに来てくれ」
そう言って、二人を退室させた。さて手紙の返事だが。
……
親愛なるラフィット
とんでもないです。こちらで判断した結果ですし、むしろご協力感謝しております。好機があればもう一度ギデオン討伐を一緒に成し遂げましょう。
ギデオン討伐、聖教国打倒には、国同士のつながりが何より重要かと思います。貴国とはこれまで以上の密なつながりを望みます。
また、サルナンで貴殿からいただいたパープルヘイズというお酒ですが、我がヴォルフスザーン領でも人気を博しております。私も大変気に入りましたので、また送っていただけると嬉しいです。
ケイゴオクダ
……
こんなところだろう。
手紙は鑑定スキルを使って日本語からランカスタ語に変換して書いた後、秘書のメアリーさんにトラキア語に翻訳して作ってもらった。
俺は貴族らしく、手紙にヴォルフスザーン家の封蝋をしてからシーナさんに手渡したのだった。
「ところでシーナさん。貴女に質問があるのですが、よろしいですか?」
俺はずっと気になっていたことをシーナさんに聞くことにした。




