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銀狼に近づいた俺は、「私は奥田圭吾といいます。あなたはアッシュのお父さんですか?」と聞いてみた。ランカスタ語なら話が通じるとかはないと思うので、日本語のジェスチャー付きで。
このデカい銀狼はアッシュのお父さんで間違いとないと思う。失礼と思いつつ鑑定してみたら【個体名:シルベスト、種族:神獣フェンリル】と出たからだ。
そんなに何体も神獣がいるとは思えないってことだな。
せっかく個体名まであるんだ。ここは敬意を払ってシルベストさんと呼ぶことにしよう。
シルベストさんは「ふんす」と鼻息を吐いて俺の質問に同意した。どうやらアッシュと同じでしゃべることはできないらしい。
だがアッシュのお父さんとなると、まずは謝罪だ。俺は「アッシュのお母さんのこと申し訳ありませんでした」と頭を下げた。
頭を下げた俺の頭頂部にシルベストさんの「ふんす」という鼻息と同時にベチャっと盛大に鼻水がかかった。
俺の頭がポマードをつけた七三分けジェントルマンみたいになってしまったが、キレては全てが台無しだ。我慢、我慢だ
するとシルベストさんは足元にあった、食べかけのシカを俺の目の前に投げてよこした。
頭頂部の鼻水を布でふきつつ目の前のシカを見た俺は「弱肉強食の世界だから仕方ないってことですか?」と聞く。
するとシルベストさんは再び「ふんす」と鼻息を出して同意してくれた。また鼻水が垂れてきていた。風邪だろうか?
俺は「ありがとうございます」と言いつつ、「ところで風邪でも引いたんですか?」と聞いてみた。するとシルベストさんは、首をふって否定。じゃあ花粉症かな?
どちらにせよ、こういう時はあれだな。
俺はビードラのテイムホテルから大皿とパルナ解毒ポーションを取り出して、「薬です」と言って舐めてもらった。これ、風邪にはもちろん鼻炎にも結構効くとうちの町でも評判なんだ。
薬をなめたシルベストさんの鼻水はどうにか治まったようで、「ふんす」と鼻を鳴らして大満足のご様子。よかったよかった。、
さて、こんなことをしている場合じゃなかった。そろそろ本題の【イリューネ草の花の蜜】と【不死鳥の霊薬】のレシピについて聞いてみよう。
「ところで俺たち、探しているものがあるのですが……」
俺の質問を聞いたシルベストさんは「ふんす」と鼻を鳴らし、小さな光の粒が発生させた。
それに手を触れてみると、霊薬のレシピとイリューネ草の在りかが書かれた文字情報が、鑑定したときに出るようなウインドウで表示された。
どうやらイリューネ草は後ろに見える【ククノチの木】という名前の樹のウロの中に自生しているようだが、花の蜜は夜にならないと採取できないらしい。
月光が花を照らすとき、蜜があふれてくるとタッチパネルに書かれていた。
どうやら俺たちは、ここでしばらく待たないといけないっぽいな。
とここで、ここまで大人しくいい子にしていたアッシュがついに限界を迎えてしまった。
俺の腕から飛び降りたアッシュは、リアルパパのシルベストさんに向かってふっとんでいったよ。
どちらにせよ夜まで待たないといけないことがわかった俺たちは、シルベストさんとアッシュがじゃれ合う様子を眺めることにしたのだった。




