k-477
しばらくその場で待っていると、ブルーウルフとはまた少し毛色の違う栗毛色の大きな狼が現れた。
アッシュがその狼に寄っていって、頭をスリスリして甘え出した。アッシュは本当に誰にでも懐くなあ。
おそらく雌狼なのだろう、母性本能丸出しでアッシュをぺろぺろと舐めていた。アッシュはお母さんを思い出したのだろうか、めちゃくちゃ嬉しそうだ。
しばらく狼特有のコミュニケーションを見守っていた俺たちを、その雌狼は「付いてこい」と言わんばかりに、後ろを振り返り振り返りしながら山へと歩き始めた。
俺はこの時、あのレスタの民に伝わる伝承の一説、「獣に導かれて」のくだりを思い出していた。
とりあえず早歩きでついていこう。
だが遅すぎたためか、すぐに雌狼がじれったそうに頻繁にこちらを見たり鼻を鳴らし始めた。
なので、アッシュに巨大化してもらいアッシュ専用の騎乗具をつけて騎乗してついていくことにした。
乗り順は前からターニャ、俺、ホワイトさんという順番だ。
それからは、軽快に山麓の森林を駆け抜けることができた。
するとやがて、急こう配の山岳地帯が眼前に広がった。
どうやら雌狼は、ここからさらに山を登るようだ。
獣道など通りなれているだろうから狼たちにとっては平気なんだろうけど、残念ながら俺たちは人間である。
高度が上がるにつれ、気が付いたときには時既に遅し。
もう「これ落ちたら絶対死ぬよね?」というレベルの断崖絶壁が眼下に広がっていた。
恐怖。
ターニャは空を飛ぶことができるので大丈夫だろうけど、俺とホワイトさんは落ちたら即死だろうな。
そんなごくごく簡単な未来予知をした俺とホワイトさんは、アッシュが剣山みたいな岩と岩の間を大ジャンプする度に盛大にバンジージャンプ並みの悲鳴を上げるのであった。
流石に死にたくないと思った俺とホワイトさんは、適当な場所を見つけてビードラと乗り籠を出し、それに乗り移ることにした。
最初からこうすればよかった。
ターニャはアッシュの背中という絶叫アトラクションがお気に召したようで、そのまま騎乗を続行するそうだ。豪気なことである。
それから俺とホワイトさんはビードラに運んでもらい、雌狼の後をついていった。
そして雌狼が右へ左へとジグザグを繰り返しつつも断崖絶壁を登り切ったその先には、実り豊かな樹木や湖、小動物や小鳥の鳴き声が聞こえてくる楽園とも言うべき風景が広がっていたのだった。




