(モノローグ・エルザ)氷の棺と未亡人 ぱーと1
――エルザ! どうだ、凄いだろ。これならどんなモンスターだって倒せるぞ!
――大丈夫、絶対に生きて帰ってくるさ。帰ってきたら、また、俺の好物のスープを作ってくれよな。
――あなたを生涯愛します。私の大地となってください。
――これで、ようやく俺も父親かあ。エルザ、実は次の子の名前を考えてあるんだ!
何故だろう。
こんな時に限って、次から次へと幸せそうな彼の笑顔ばかりが浮かんでくる。
そして彼の笑顔が浮かぶ度に、氷の棺で目を閉じた彼の姿が浮かび、もう二度とその笑顔を見ることができないという現実を突きつけられ、絶望の谷へと突き落とされるのだ。
涙が溢れて止まらない。
辛い、悲しい。生きるのが苦しい。
まるで私の生きている世界が、全て凍り付いたように感じる。
彼は変わり果てた姿となり氷の中にいた。
彼の肌に触れることすらできなかった。氷越しに触れた彼はとても冷たいものに感じた。
そんなことをしても彼が死んでしまったという現実を突きつけられるだけで辛いだけなのに。
昨日ジュノの変わり果てた姿を見てから、私は自室に引きこもってベッドでうずくまっていた。
ジュノのお義母さんが私を心配してごはんを作ってくれたり、娘のリンの面倒を見てくれたりしていて、そんな優しさが逆に申し訳なくて、情けなくて、余計に辛さを倍増させている気がする。
全く食欲がなくベッドから起き上がるのも苦痛で、何かを口に入れてもすぐに吐いてしまう状態が続いている。
起き上がる意欲もなく、かといってぐっすり眠れるわけでもない。ただジュノとの思い出がぐるぐると頭の中で繰り返されるばかり。
コンコン
ドアがノックされた。
お義母さんが食事の乗ったトレーをもって入ってきた。
「エルザ辛いのにごめんね。これ、少しずつでもいいから食べるのよ。あと、今は悲しんでもいいの。悲しむことは悪いことではないわ」
「お義母さん、本当にごめんなさい……」
上体を起こし、鏡面台に映る私の顔はそれはもう酷いものだった。お義母さんが心配するのも無理もない。
「謝らないで、エルザ。私も旦那を亡くしているから、あなたの気持ち、とってもよくわかるのよ」
ジュノのお父さんが病気で亡くなったとき、きっとお義母さんもこんな身をもがれるような辛さを味わったんだ。そして今、お義母さんは息子を亡くしてしまった。
こんな時でも強くいれるなんて、なんという人なんだろう。それに引き換え私のなんという情けないことか。
そして、また落ち込む私。
すると開いたドアから娘のリンが「まーま!」と言い入ってきた。
よちよち歩きのリンが枕元に来てくれ、天使のような笑顔で私の頭を撫でてくれた。
心配してくれてるの?
不意に私の両目から熱いものがこみ上げてきた。
「まーまいたいの? いたいのいたいのとんでけー」
なんだろう、心が痛いのと、娘が愛おしいのと、いろんな感情がぐちゃぐちゃだ。
リンに頭を撫でられた私は、ただただ布団に突っ伏して泣くことしかできなかった。
「リンちゃん。向こうでバーバと一緒に遊びましょうね」
「あい!」
リンは右手を上げて元気いっぱいに返事をすると、お義母さんと手を繋ぎ部屋を出ていったのだった。




