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教会の中はお通夜のような状態になっていた。
ジュノとジョニー(マペット)の死を悼む人たちが集まり、持ち寄った料理が振る舞われていた。
昔話に花が咲いているようで、こういうのは元の世界とあまり変わらないなと思った。
エルザは感情的になりすぎると母体に良くないからという理由で、キシュウ先生とナティアさんに付き添われ、一度自宅に戻っていった。
俺は全員が少し落ち着く頃合いを待って、ジュノたちを生き返らせることができるかもしれないことを伝えることにした。
俺はみんなの前で生命蘇生術が存在すること、遺体を教会に安置しておくことが一番成功確率があがること、これから生命蘇生術に必要な素材探しの旅に出る必要があることを伝えた。
みんなの顔がとたんに希望に満ちたものになっていった。俺は希望を持たせすぎてもいけないと思い、「そんなに簡単なことじゃない、むしろ奇跡に近い」と釘を刺しておいた。
俺がみんなにこのことを伝えたのは報告会がしたかったわけじゃなく、知恵を貸してもらいたかったからだ。
ホワイトさんから教わった生命蘇生術に必要なものとは、そのものずばり【不死鳥の霊薬】だ。
以前王都にある王族専用の王族書庫で見かけたことがある薬だ。
おさらいすると、文献に書かれていたのは「錬金術を極めた者」「イリューネ草の花の蜜」「神獣の毛」「イレーヌ薬草」「ムレーヌ解毒草」を材料にある分量比で調合し魔力を込めて煮込むと虹色の液体が得られると書いてあった。
効能は1%の確率で死者が蘇生すると書かれていたけど、遺体の状態にも左右されるので、確率は正直あてにしない方がいいというのはホワイトさんの言だった。
これらの素材の中では、イリューネの草の花の蜜が一番入手難易度が高い。(神獣の毛はアッシュの毛でいけるだろうとのことだ)
そして、これに関する吟遊詩人の詩を以前ユリナさんと初めて出会ったとき、彼女が翻訳してくれたものがメモとして俺の手元に残っていた。
つまりジュノたちを復活させる霊薬を作るためのヒントが、元レスタに住んでいたみんなの頭の中にある可能性が高いということだ。
俺はそのメモにあった詩を読み上げると、「誰かこれについて詳しく知っている者はいないか?」と問いかけてみることにした。
まず、俺がユリナさんから教えてもらったのは次の内容になる。
……
西の峻険な山脈のどこかに樹齢一万年を超える神樹があり、その根元に『イリューネ草』と呼ばれる、銀色に光り輝く花が自生している。その神樹は恐ろしい魔獣たちに守られている。その花の蜜が万病に効くという言い伝えがある。
万能薬はイリューネ草の花の蜜、イレーヌ薬草、ムレーヌ解毒草、神樹を守護する神獣の毛が必要だと伝承では語られている。
……
すると、サラサがそれも答えてくれた。
サラサが言うには、例の吟遊詩人の詩はレスタの中では有名なものだったらしく、俺が聞いたものには続きがあるそうだ。
……
人々を苦しめた邪悪な魔物を倒すために立ち上がった騎士と魔法使いは冒険の旅に出た。
邪悪な魔物との戦いで重傷を負った騎士を背負った魔法使いは、【牙の大岩】で出会った獣に導かれ、神獣の守護する【神樹の泉】に辿り着く。
そして魔法使いは、騎士の命を救ってほしいと神獣に願った。
神獣は魔法使いに、イリューネ草の花の蜜、イレーヌ薬草、ムレーヌ解毒草、神獣の毛を与える。
魔法使いは、魔力を込めてそれらを混ぜ合わせ虹色の薬を作った。
そしてそれを飲んだ騎士は見事復活し、邪悪な魔物を倒しましたとさ。
めでたしめでたし。
……
サラサはよく母親からおとぎ話として聞いていたそうだ。
つまりこれは、レスタに伝わる口伝の伝承とも言うことができる。
そして「重傷を負った騎士」「復活」という言葉からは、死者蘇生のように読めなくもなく、王族書庫で見た文献と合わせるとかなり信憑性があるように思えた。
ともかくこれで伝承の内容がわかった。




