(モノローグ・シーナ)見えない鎖
私の名はシーナ。
トラキア商業国家連邦という砂漠の国で生まれ落ち、流行り病で両親を亡くした私と妹のリアは、二人で必死に生きてきた。
そんなある日、10歳にも満たない少女だった私たちを、スラム街を視察に来た《《あの方》》が拾ってくれた。
《《あの方》》の元で私と妹のリリアは、スパイとして必要なことを全て叩き込まれた。
中には口に出すことも憚られるようなことも沢山あった。
成長した私たち姉妹は《《あの方》》のスパイとして働き始めた。女の武器を使ってターゲットに取り入って暗殺したりなんてこともしょっちゅうだった。
遠い地で任務をこなすリリアと私は、《《あの方》》から「見えない鎖」を施されている。決して裏切ったり逃げたりできないようにするためだ。
その「見えない鎖」は体に負担がかかる。妹のリリアは少し体が弱かったため、病に伏すようになった。
すると《《あの方》》は私に「リリアの分も働け」と仰った。
「見えない鎖」で縛られた私は、決して逆らうことはできなかった。
……
今回の任務は、とある人物をゼラリオン聖教国内に誘い込むことだ。任務を達成すれば、その人物はもちろん同行した者も皆殺しになるだろう。
それだけあの国の教皇はとんでもない化け物だ。
船旅の中、標的の一行と何気ない会話をした。懐に入り込んで信頼を得るためとは言え、何度やっても嫌なものだわ。
会話をしているうちに、彼らは悪人ではなく、どう見ても「良い人たち」にしか思えなくなっていた。
私は一体何をやっているのだろう。
こんな「見えない鎖」さえなければ、リリアと一緒に彼らの元に亡命でもできるのに。
でもそんな夢みたいなことを考えたって救われないのもわかっている。
世の中には絶対に逆らってはいけないルールが存在するということ。
逆らえば妹の命が危ない。
私はそうやって罪悪感を押し殺し、彼らを罠にハメる計画を進行させるのだった。




