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厩に泊まるメンバーにはもちろん俺も入っている。
今は貴族だのは関係ないだろうからな。ジュノ、マルゴももちろん特別扱いはしない。
そしてちなみに俺は今日厩に泊まる。まあ眠るまでは、山小屋で火にあたらせてもらうけど。
寝床の準備をするため厩に俺が入ろうとすると、アッシュが率先して中に入っていった。
今日もアッシュは俺の足元で眠りたいようで、可愛すぎる姿にほっぺたが自然とニマニマしてくる。
なんだかこちらに来たばかりの鶏小屋兼農具小屋のことを思い出すなあ。あそこは今頃どうなっているのだろう。
……
一息ついた俺たちは山小屋の中で火にあたりながらバルザックさんの話を聞くことにした。
バルザックさんの話だと、ゼラリオン聖教国の聖都ゼリアはこの山から3日ほど歩いた場所にあるそうで、バルザックさんは海で獲った魚介類や薪、木炭を売る体で偵察任務をこなしているそうだ。
そして今から8日後がゼラリオン教上、死と再生を意味する【常闇の日】を迎えるとのこと。
その日は教皇ギデオンが聖堂に一人でこもることになり、各地から巡礼者が集まるため、俺たちでも侵入することができるのだそうだ。
信徒でもある警備兵たちも家にこもり、神に祈りを捧げるのが通例となっているので、教皇に接触する絶好の機会となっている。
話のついでとばかりに、バルザックさんは人数分の信徒が身に着けるフード付きの外套とゼラリオン教のシンボルを象った劣鉄製の首飾りを俺たちに渡してくれたのだった。
……
ということで俺たちには数日。間の猶予があることがわかったのだが、任務中とはいえここは山の中。
吹雪と闇夜で外界とは隔絶されており、人など来そうにもない。
そして、ただ待つだけというのは想像以上に退屈で辛いもの。
ならばと山小屋のテーブルに座った俺は、おもむろに亜空間に手を突っ込むと、みんなの目の前で大吟醸のボトルを取り出してみた。
すると、仏頂面で武器の手入れをしていたバルザックさんとマルゴが急に締まりのない顔になり、目がボトルの艶めかしいフォルムに抗いようもなく吸い寄せられていくのがわかった。
俺はバルザックさんに「おいちゃんもいけるクチかね?」のジェスチャー。するとバルザックさんも顔を緩ませて「もちろん」のジェスチャーで返してきた。いいねえ。
そこへ、マルゴ、ジュノ、ザック、ジョニーたちが俺の肩を叩いて、俺にもくれの合図。
しゃあない、みんなで飲むなら追加の樽酒でも出すか。
酒は全世界共通のコミュニケーションツールだなと思う俺であった。
オーロラのカーテンが揺らめく死を感じるほどの寒い夜、俺たちは山小屋の中で身を寄せ合いながら、ささやかな宴会を楽しんだのだった。




