k-411
馬車が到着した場所は、ターニャと俺が腰にぶら下げている剣の造り主、デルムンド氏の工房だった。
屋敷に入る前にそう説明され、どんなイカつい鍛治士が出てくるかと待ち構えていた俺は、肩透かしを食らった。
何と見た目には可愛らしい女の子だったのだ。まさかこんな女の子が!? と驚いてみたけど相手の反応からして、どうやら冗談ではないらしい。
ブロンドに片眼鏡、そして熱気の籠る鍛冶場にはおよそ相応しくない厚手のコートを着込んだ白肌の少女。そして少女の額からは、銀色のツノのようなものが一本生えていた。
「やあ、バンデット。キミがお客さんを連れてくるなんて珍しいじゃないか」ということをドーリア語で話すデルムンド氏。
「キミは誰?」と水を向けられたので、俺は覚えたてほやほやのドーリア語で、「私の名前は奥田圭吾です、レスタ王国の貴族です」とネイティヴとは程遠い、中学生の英語スピーチのような自己紹介をしたのだった。
ふむふむと頷いた雰囲気のデルムンド氏は「立ち話は何なので」と言い、中に通されたのだった。
中には特に応接間があるというわけではなく、鍛冶場兼書斎みたいなところに通された。
鍛冶場に書斎? と矛盾したことを言っているようだが本当のことだ。
その暑苦しい鍛冶場には、火事にならないのが不思議なくらい、ぎっしりと壁一杯に本が並んでいた。
その不思議な空間の中、調整が終わったらしき竜の首でも落とせそうな巨大なバスタードソードを軽々と片手で持ち、涼し気な表情で壁に立てかけたのだった。
まるで錬金術師が鍛冶師の真似事をしているようだなと思いつつ、自分もそうだろうと苦笑する俺であった。




