k-388
眠りから目覚めた俺は、目を擦りながら昨日考えていたことを何となく思い出していた。
某国民的RPGでは、敵の攻撃で一番嫌らしく感じたのが即死呪文ザ◯キと混乱呪文メ◯パニだった。
2作目で仮にレベルがカンストした勇者パーティが大神官ハー◯ンに行き着く前の中ボス、アト◯ス、バ◯ズ、ベ◯アルと戦うとして、死ぬ可能性があるのはザラ◯を使うバズ◯だけだったと記憶している。
3作目のモンスター “げんじゅ◯し” が使ってきたメダ◯ニも、混乱して仲間に攻撃されたらまずい状況……、例えばレベル99の勇者が混乱すると仲間が死ぬ可能性が出てくる。
つまり、勇者と神獣という頭ひとつ飛び抜けた二人がいるパーティにとって、あのパニックワームのブレスは決定的な弱点だと思うのだ。
今回の戦闘を振り返っても、錯乱したのがターニャやアッシュで、何らかの大技を仲間に放たれていたら大惨事だっただろう。
この弱点は今のうちから是が非でも克服しておきたいところ。
俺は言葉とジェスチャーではみんなに伝わりきらないと思い、このアイデアを鑑定スキルを駆使して手紙に書いたのだった。
そしてみんなが起きてくる前に、対策の下準備をすることにした。用意したのは素材二つ。
【パニックワームの表皮:パニックブレスの成分を中和する素材。口や鼻を覆えば、パニックブレスによる状態異常効果を軽減できる。ただし表皮には長くさらされたパニックブレスの成分が含まれているので、よく洗浄した上で加工すること】
【パニックワームの毒腺:パニックブレスの成分が分泌される液体袋。液体が気化したものを吸ったりするだけでも錯乱発狂するので、取り扱いには注意すること】
準備万端だ。
古来より暗殺を生業とする者は、その訓練の一部として少量の毒を摂取し、体に耐性をつけると聞き及ぶ。
今回もその応用というわけだ。
朝飯を食いがてら手紙を全員に見せた。すると俺のアイデアに不安の声を上げたのは女性陣だけで、あとは同意を得ることができた。
まったくユリナさんは心配性だなあ。
俺がターニャやアッシュにいきなりそんな危険なことをさせるわけがないじゃないですか。まずは俺が大丈夫か実演しますから安心してください。
そう言ってユリナさんたちを安心させた俺はリビングに移動した。
念の為木製の重たい椅子に自分の体をくくりつけ、暴れられないようにした。
窓は全て開放し、毒気がこもらないようにした。
そして俺の目の前にはパニックワームの毒腺が乗った皿。
アッシュがクーンと不安げな声を出して椅子に座る俺を見上げている。ユリナさんも非常に心配そうな顔をしている。
大丈夫だよ。俺は二人を安心させるように穏やかな笑顔を浮かべる。
それから、唯一自由になる右手で流れるような所作でおもむろに毒腺を掴み顔前まで持ってくる。
すほおー
そのまま俺は毒腺の匂いを嗅いだのだった。




