k-379
我が家にもセトという新しい家族が増え、アッシュはすっかりお兄ちゃんを気取っていた。
アッシュはセトがおしめにウンチをしたらすぐに吠えて教えてくれるし、この間はセトが熱を出しているのも教えてくれた。
逆にターニャはユリナさんがセトにかかりっきりなのが面白くない様子。
「ユリナは私のなの! ユリナを独り占めするセトなんか大っ嫌い!」
という感じのことを言うターニャ。
ターニャがセトからおしゃぶりをとって意地悪し、セトがビービー泣きだした。それを見ていたユリナさんの眉毛が釣り上がる。
「ターニャ! なんてことするの! セトに謝りなさい!」
「いや! セトなんていなくなっちゃえばいいのよ!」
「ターニャ!」
パン! とターニャの頬をぶつユリナさん。
二人は普段喧嘩などしたことがないので俺とアッシュはオロオロ。
ターニャは驚きの表情となり、やがて大粒の涙がポロポロとこぼれ始めた。
「ユリナが、ユリナがぶった……。セトもユリナも、みんなみんな大っ嫌い!」
そう叫んだターニャが家出。
それをアッシュが追いかける。
俺は日本語で「よっこらせ」と言いながら立ち上がって、太ももを叩く。
まあよく見る風景。驚くほどのことでもないさ。
「私、なんてことを……」
「ユリナさんは間違ってないよ、俺がターニャを連れ戻してくるから待ってて」
俺はユリナさんを抱きしめて慰めたけど、初めてターニャをぶってしまったことにショックを受けたみたいだ。
俺はもう一度ユリナさんに「大丈夫」と言い家を出たのだった。
それからしばらく町の中を探していると、アッシュを抱っこしたターニャが教会の裏の木陰でうずくまっているのを見つけた。
「ターニャ」
俺はターニャの前にしゃがんで優しく声をかけた。ターニャは涙をボロボロ流して泣いていた。アッシュはいい子にしている。
「ほらターニャ、ユリナさんとセトにゴメンナサイしなきゃな。ちゃんと謝れば許してくれるさ。さあ、おうちに帰ろう」
鼻水と涙を垂らしながら謝るターニャ。
アッシュの後頭部が涙と鼻水でベトベトになっている。俺はそんな二人が無性に愛おしく思えた。
それから俺とターニャは一緒に手をつないで家に帰ったのだった。
家に帰ると、ユリナさんがシェフに代わって手作りクリームシチューを作って待ってくれていた。
ターニャが泣きながらユリナさんにごめんなさいしていたよ。
歩き回ってお腹を空かせた俺たちは、みんなでハフハフ言いながらクリームシチューを食べた。
俺はこのクリームシチューを、この先何があっても、ずっと味わっていたいと思った。




