k-373
そこは狂騒と狂乱が支配する賭博場。
熱に浮かれた勝負師たちが、自らの命運をかけて夜通し熱い戦いを繰り広げる場所だ。
そしてマルゴも夢と欲望を胸に抱くその勝負師の一人だった。
大量に増えたり減ったりするコインを前に、アドレナリンやら脳汁やらがドバドバ状態のマルゴ。
完全にキマった目をしており、俺やジュノが何を言ってもやめようとしない。
日付は既に変わって久しい。そろそろ戻らないと色々マズイような気がするけど、一向に終わる気配がない。
流石に付き合いきれなくなった俺とジュノは、マルゴが馬鹿騒ぎしているバカラテーブル近くの椅子でぐったりしていた。
すると不意に周囲の体感気温がマイナス10℃くらいになったような気がした。
後ろを振り返るとサラサ、エルザ、ユリナさんが静かに佇んでいた。
青くなる俺とジュノ。無表情なのがむしろ恐ろしく感じる。
マルゴを見ると、サラサの存在に全く気づいていない。
幽鬼のような表情で静かにマルゴに近づき、肩を叩くサラサ。
バカラに熱中するマルゴはノールックで肩に止まったハエでも払うかのような仕草でサラサの手を払う。
それから何度も肩を叩き続けるサラサ。払うマルゴ。サラサの背中からゴゴゴゴという文字が浮かんできそうな気配。
サラサに視線を向けたディーラーのお兄さんがガタガタ震え出した。サラサは一体どんな表情をしているのだろう。
なんか寒くなってきた。体感気温がさらにマイナス20℃くらいになった気がする。バナナで釘でも打てそうだ。
声を上げるなとばかりに俺とジュノの肩にも妻の手が添えられている。心なしかひんやり冷たい。
ユリナさん、言っておきますけど俺は無罪ですよ?
だが下手な言葉は逆効果。ここは貝になるが上策である。
ディーラーの表情でようやく目が笑っていない笑顔のサラサの存在に気がついたマルゴ。
それから首根っこを掴まれた俺たちは温泉ホテルの一室へと連行され、子どもたちを寝かしつけた妻の前で正座をして「ギャンブルにのめり込みすぎません」と宣言したのだった。




