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もうそろそろ長袖は暑いかなと思い始める。そんな季節のこと。
ユリナさん、サラサ、エルザが揃って妊娠し、キシュウ先生の病院で出産することになった。
キシュウ先生のもとで学んだ医術の心得の中には、こちらの女の人がどういう体のメカニズムで妊娠出産に及ぶのかというものもある。
なので逆算すると結婚式前後のあのあたりかあ、などと自分のことならいざ知らず、親友たちのことまでよからぬことが頭によぎってしまった。
それはさておき、出産という大事だ。教会に行って安産祈願をしないとだ。
この世界では原則出産に男性が立ち合うことは厳禁とされており、医師のいない村落などでは経験豊富な産婆さんが赤子を取り上げるのが通例となっていた。
この町でもそれは同じなのだが、何かあった時のためにキシュウ先生に立ち会いをお願いしている。
俺もキシュウ先生の弟子という立場ではあるが、領主が出産に立ち会うなどさすがに妊婦さんが嫌がるだろうと思い遠慮している。
先にサラサやエルザの出産が始まると、俺もマルゴやジュノと一緒に待合室で待つことになった。
マルゴとジュノは妻の叫び声を聞く度に落ち着かない様子でウロウロと待合室の廊下を行ったり来たりしていた。
熊みたいだ。
オギャーという鳴き声が聞こえてきた。無事に産まれたみたいでよかった。
ユリナさんの出産には俺も立ち会った。分娩室でずっとユリナさんの手を握りラマーズ法の呼吸をした。
ひっひっふー。
そして俺たちの間にも赤ちゃんが生まれた。
俺とユリナさん、マルゴとサラサの間には男の子。ジュノとエルザの間には女の子だった。
こちらの世界では赤ちゃんが生まれると、教会に洗礼と命名をお願いする決まりになっているそうで。
命名は自分たちで考えた名前をつけてもらうことも可能だそうで、俺たちの子供にはユリナさんの亡くなったお兄さんから名前をいただき「セト」と名付けることにした。
マルゴとサラサの子供はゲイル、ジュノとエルザの子供はリンと名付けられた。
シャーロットさんはグラシエス様を象った聖杖を赤ちゃんにあて祝福の魔法をかけてくれた。
祝福の魔法はこの子が14歳の成人を迎えるまで病魔を退けてくれるでしょう。健やかに。
彼女はそう言った。
俺たちはシャーロットさんにお礼を言い、グラシエス様の神像に感謝の祈りを捧げたのだった。




