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でもそんなことは、こちらの世界で必死に生きてるうちに気にならなくなっていった。
それはマルゴやサラサといった気の良い友人たちだけのお陰じゃない。
今もこうして、真っ正面から向き合ってくれる人たちと接するうちに、まだまだ人間は捨てたもんじゃないと思えるようになった。
まだ人はちゃんと夢や希望を語る口を失ってはいないと、諦めるのはまだ早いと。
だからもう一度人を信じてみよう。悲しい出来事があったって、人は何度だって立ちあがることができるのだと。
人の夢は終わらない。終わらせてはならないのだ。
形は変われど、こちらの世界にも人の夢を否定し魂を貶める邪悪はいる。
だからといって恐れる必要はない。
長い人生だ。心が弱り折れ、惑うこともあるだろう。
でも折れたっていい、惑ったっていい。打ちひしがれてもいい。
なぜなら、その度に立ち上がればいいのだから。
人は何度だってやり直せるチャンスを神様から与えられているのだから。
なので俺は、今決めることにした。
この世界で愛する人たちと一緒に、人の夢を何度だって追いかけ続けることを。
◆
気がつけば隣にユリナさんがいて、なぜか頭を撫でてくれていた。
自分の頬が水気を帯びている。
どうやら俺は原因不明の涙を流していたみたいだ。
俺は彼女に「愛している」と心の底からの言葉をプレゼントする。
彼女は一瞬驚いた顔をしたが、嬉しそう。
そしてまた沈黙が流れる。
しばらくすると周りにマルゴやサラサ、ジュノ、エルザ、大勢の人たちが集まってきた。
楽器をかき鳴らし、踊り歌いながら。
俺が単純にお祝いの言葉に感動して泣いたもんだと勘違いして冷やかしてきやがる。
いや、別に勘違いでもなんでもなかったか。
俺は彼らの底抜けに明るい希望の言葉に単純に感動したんだ。
だから俺は今日この日も。明日も明後日も。一日一日を丁寧に生きて、最期の瞬間を迎えよう。
俺はそう思ったんだ。




