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【書籍化・コミカライズ化】商社マンの異世界サバイバル ~絶対人とはつるまねえ~  作者: 餡乃雲(あんのうん)


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k-358

 目まぐるしい日々を過ごしているうちに、ついに結婚式当日の朝を迎えた。



 俺は隣で眠るユリナさんにキスをする。



 ユリナさんと過ごす夜は何度目になるのかもう覚えていない。口づけの数も、もうわからない。


 だけど昨日は、結婚式を控えていると言う昂揚感も相まって特別な夜を過ごせたような気がする。


 そろそろ子供ができるかもね、なんて話もしたな。


 もう新婚とは言えなくなった朝。今日は結婚式があるので少し新鮮だけど、やっぱりいつも通りの安心な朝なのは変わらない。



 起きなきゃいけないのはわかっているけど、どうやら彼女の温もりからは逃れられそうにない。俺は再び彼女の髪に触れ顔を埋めた。やっぱり安心。


 こうやって一緒に過ごす期間が長くなればなるほど刺激は少なくなるが、その分安心は増えていく。


 安心が増えすぎると今回の結婚式みたいなちょっとした刺激が嬉しかったりする。



 きっとこんなふうに夫婦関係は少しづつ熟成していくのだろう。



「おはようユリナさん、水飲むかい?」


「アリガトウ」



 ようやく目覚めたユリナさんに俺は聞く。


 すると彼女は不慣れな日本語のイントネーションでそう答えてくれた。水を手渡す俺。


 俺もランカスタ語を覚えようとするように、彼女も俺の母国語を覚えようとしてくれている。



 お互い歩み寄ろうとしている感覚がたまらなく幸せに感じる。


 お互いの気持ちを通じ合わせるのに、別に完璧に発音できて流暢にお喋りできないといけないわけじゃない。コミュニケーションにおいて言葉は一手段に過ぎないんだと再認識する。


 むしろ会話ができない状況が、二人の関係にプラスに働くことすらあるんじゃないかとすら思う。



 それから俺たちは、再び言葉のいらないコミュニケーションの最上位に位置するであろう熱い抱擁とキスをした。



 しばらくしてベッドを抜け出した俺とユリナさんは、手を繋いで並んで洗面台へ。


 鏡の前にあるコップと歯ブラシとり、雑貨店で最近売りに出した自社開発の歯磨き粉をつけて歯を磨く。


 しゃこしゃこ、という音だけが響く。お互いの頬についた歯磨き粉を指で掬ったり救われたり。



 足元が騒がしいのでふと視線を下に向けると、アッシュが足元でうろちょろして俺を見上げていた。


 俺とユリナさんがイチャついていると、アッシュはいつだって「僕も!」と二人の間に入ってくる世界一可愛いお邪魔虫だ。


 俺はアッシュをターニャの部屋に差し向け、顔を舐めて起こすように指示を出す。



 何も特別じゃない、いつも通りの朝。安心で大切な時間。


 朝食はコーヒー(もどき)、トースト、目玉焼き。たまにコーヒーを飲むとタバコの香りを思い出す。でも吸おうとは思わない。一秒でも彼女と一緒に長生きしたいから。



 朝食の後、俺とユリナさんはタキシードとドレスに着替え教会へ向かうことにしたのだった。

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