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北の敵国ハイランデル王国とは停戦交渉が行われることはなかった。
そもそも両国の間で毎年小競り合いがあったのも、停戦協定のようなものがなかったことが原因だった。
そして今回も改めて協定が結ばれることはなかった。
これ以上敵が継戦してくることはないという参謀本部と諜報部の見解が一致したことで、地方貴族軍への待機命令が解かれ、各軍はそれぞれの領地へ戻っていった。
その前に俺は、敵軍に荒らされた王都以北の領土を統治する3貴族を訪ね、「これを領地の復興にお役立てください」という言葉とともに3領主合計金貨30万枚を渡したのだった。
俺は商社マン時代にとある師匠から教わった言葉がある。
それは、「誰かにギブする(与える)なら、その人が一番困っている時に行え」というものだった。
例えば、今ここに現金1000万円があるとする。
それを資産10億円をもつお金持ちのAさんにプレゼントするが仮にあるとする。
そして、①そのAさんが何もお金に困っていない時にあげる場合と、②Aさんが経営する会社が傾き借入の返済で大変な時にあげる場合、どちらが感謝されるだろうか。
そんなことは考えるまでもなく②の場合に決まっている。
前者は嬉しいには違いないけど、そもそもお金には困っていない状況。後者だとAさんはあなたのことが神様か救世主にでも見えていることだろう。
この例え話から得られる教訓は、こちらが出したお金は同じ1000万円でも、状況が変わるとその価値に雲泥の差がつくということになる。
俺の師匠はこの教訓を営業に変換してみろと言った。そしてこの考えは、もちろん領地経営にも応用できるものだ。
そこで俺は、ハイランデル王国に蹂躙され焼け野原になった領地の復興で困っている3領主を支援することにした。
案の定3領主は「今は返せるものはないが、貴公とは永遠なる友誼を!」みたいなことを感涙しながら言っていた。
相手に感謝され双方の利益になり、さらに社会的な意義のあるウィンウィンウィンな関係。
それが良い商売だと思っている。




