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それから俺は、カンテラの灯りを頼りに鑑定スキルを駆使し、古文書を片っ端から読み漁ることにした。
読書は賢人たちの知恵を受け継ぐ行為だ。
この世界の隠された知識にアクセスすることに、俺は知的興奮を覚えて仕方がなかった。
古文書には貴重な食材や魔法、金属、モンスターなどの知識が書いており興味が尽きることはなかった。
その中でも「神鉄オリハルコン」と、「不死鳥の霊薬」に関する記述に目が止まった。
その神鉄オリハルコンに関する記述のあった古文書は、あまり保存状態が良くなかった。
虫食いだらけの古文書には、「鍛冶を極めた者」「神のカケラ」「神獣の爪」「貴鉄」「神槌」という単語。
「神槌」に関しては紙が朽ち果てており「精霊樹の船」「復活の炎」という単語しか読み取れなかった。
また製造方法については、神獣の爪と神のカケラを砕いたものを貴鉄と一緒に炉で熱することで神鉄オリハルコンを得るとあった。
そして重要なのが、この金属を用いた武具を装備した勇者が魔王を討滅したという記述。
そもそもランカスタ王国建国以前の戦いのようで、どれくらい前のことかすら把握できない。
だがそのような伝説が残っている以上、神鉄とやらを作ることも頭の片隅に置いておかなければならないと思った。
またもう一つ目が止まったのは「不死鳥の霊薬」に関する古文書だ。
その本は、事故で死んだ最愛の娘の蘇生・復活を試みた錬金術師の研究論文のようだった。
死者蘇生なんて普通に考えてあり得ないんだけど、魔法のある世界ならもしかして? と思い一応メモをとることにした。
論文には「錬金術を極めた者」「イリューネ草の花の蜜」「神獣の毛」「イレーヌ薬草」「ムレーヌ解毒草」を材料にある分量比で調合し魔力を込めて煮込むと虹色の液体が得られると書いてあった。
効能は100人に1人の確率(つまり1%)で死者が蘇生するというものだった。
俺はふと、イリューネ草という名前を聞いたことがあるなと感じた。どこでだったろう。
俺はいつも持ち歩いているこの世界のことをまとめた本をカバンから引っ張り出すとその記述を見つけることができた。
意外なことにそれはユリナさんに初めて出会った日、彼女が吟遊詩人の詩だと言って語ってくれたことだった。
邸宅に戻ったら改めてユリナさんに聞くとしよう。
それから俺は、尽きることのない好奇心に従って本を読み漁った。
そうして数日間を王族の書庫で過ごした俺は、ようやく図書館を後にしたのだった。




