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俺は一人、静かな図書館の閲覧用の机に座る。周りには学生らしい人たちがちらほら。
俺は紙が黄色く変色している本を広げ、破れないように慎重にページをめくった。
そして書籍 “霊薬エリクシスとその製薬法の探求” の核心部分には次のように書いてあった。
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我輩が古代遺跡から独自に入手し解読した古文書によると、イレーヌ薬草、ムレーヌ解毒草、ベルジン魔力草、聖なる竜の力で清めた水を一定5:4:2:2の比重で配合。最後に魔獣竜の生血を少量垂らし、魔力を込めて混ぜると完成するとされている。
ただし、この薬を幻の霊薬たらしめる所以は素材の入手難易度もさることながら、その要求される錬金術の熟練度合いの高さにあると言ってもよいだろう。
なんとレベル12という、人類史上が何人が到達できるだろうかというレベルが要求されるとその古文書には書かれていたのである。(ちなみに当代で最も偉大な錬金術師と言われている私ですらあと一歩及んでいないのだから、その要求レベルの高さが窺えるだろう)
要求素材の難易度も高く、かかる費用も莫大となることが予想される。
凶暴凶悪な魔獣竜を生きたまま捕獲し、その生血を注ぐなど正気の沙汰とは思えないし、費用で換算するといくらになるのか想像もつかない。聖属性を操る竜も世界には数体存在が確認されているが、その祝福を得ることは簡単なことではないだろう。
未熟な錬金術師が富と名声に目が眩み、手を出して破産する姿を我輩は何度も見てきている。
今後この論文が出たことによって、この薬に挑戦することが錬金術師が破産することになる最大の原因になると予言しておこう。
最後に次の言葉を残し、我輩は本論文の筆を置くこととする。
錬金術の高みを目指す諸氏に告ぐ。軽々にこの薬に手を出さないよう切に願う。
(当代で最も偉大な錬金術師、ベネディクト・フォン・ブリリアント)
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研究論文らしき本は、そう締めくくられ終わっていた。
どうやら著者である当代で最も偉大な錬金術師様は製薬に成功しておらず、論文の内容としては信憑性の高い遺跡から出てきた古文書を翻訳し、著者独自の解釈を加えたものであるようだ。
発行年を見ると本はかなり前に書かれたもので、著者さんは既にこの世にはいないだろう。
仮にこの古文書とやらに書かれているレシピが正しいとしてだ。
「これ、作れるんじゃね?」
思わず静まり返った図書館の中で素でそう呟いてしまい、静かに読書をしている人たちの顰蹙を買ってしまう俺であった。




