アランとディーン ぱーと3
「どう計算しても食料と仮設テントの備蓄が足りないわ」
「ポーションの備蓄量も絶望的だにゃ」
サラサとアイリスはホワイトからの連絡を受け、ケイゴたちヴォルフザーン準子爵軍、そしてランカスタ王国軍の要請で南国からの物資調達や輸送を任されていた。
まだ年若い彼女たちを頼りにしている時点で、王国軍の窮状が窺い知れる。
彼女たちは商業ギルドの一室に詰め、部下たちと書類と格闘していた。
しかし想定していたよりも比べ明らかに調達できた物資が不足してる。完全に足元を見られている。
北への輸送物資だけではない。北から避難民も押し寄せてきており、領内に行き渡らせるのも一苦労という状態だ。
避難民の中には大商人も含まれているが、サラサとアイリスのお手並み拝見とばかりに皆様子見を決め込んでいる。
要は歳上の商人連中は「小娘どもが、さっさと泣きついてこい」とでも思っているようで、サラサやアイリスに協力するつもりはなさそうだ。
世話になっておきながら面の皮が厚いとはこのことである。
全員が暗い表情で書類と睨めっこをしていたその時。
「お嬢様方、お悩みの様子だねえ?」
「失礼しますよ」
「え!? パパ?」
「サラサうるさいにゃ、気が散るにゃ。にゃにゃ? とーちゃん!」
先に気が付いたのはサラサ。続いて耳がピーンと立てたアイリスが動物的な反応速度でディーンに飛びついた。
「お前たちにプレゼントをもってきたぞ」
アランが紙の束をサラサの前に置く。
「これは……?」
「何にゃのにゃ?」
サラサが紙束を手にとり目を通すとみるみる驚きの表情となった。
「何だろうねえ、当ててみ」
「それは私とアランが長年の商売の伝手を駆使して集めた情報です。ランカスタや周辺諸国のどこに何があるのか。そしてそれを手に入れるためには誰をどのように調略すれば良いのかが書いてあります」
「言っちゃったよ。堅物は面白味に欠けるねえ」
涼し気な顔でアイリスの問いに答えるディーン。アイリスはサラサから紙束をひったくった。
「凄いにゃ……。この情報があれば何とかなるかもにゃ!! みんにゃ作戦を立て直すにゃ!」
「「にゃっ!」」
アイリスの部下猫たちがリストの分析作業を開始したのだった。
「パパ、ディーン。本当にありがとう」
サラサは感極まって涙声になった。
「泣いてる場合じゃねえぞ? 戦争の勝敗は準備で決まるからな。敗戦国の商人なってやってられるかっつーの」
「パパ……」
アランが日和見を決め込んでいた百戦錬磨の商人たちに号令をかけると、彼らは部屋の中に次々と机や書棚を運び込んだ。
アランたちの加入により一気に活気づいたのだった。
その後王国中の商人たちは、一致団結してハイランデル王国との後方支援にあたり勝利を掴む。
大商人たちが指令役のサラサに文句を言わず従ったのは、バックに豪商アランがいたことが大きかった。
剣や魔法という華々しい表舞台の裏側には人知れずソロバンを武器に戦う商人たちの姿があったのだった。




