アランとディーン ぱーと1
ケイゴが新しく町を作りサラサとアイリスも彼と共に移住したその日。
「行ってしまったな」
「そうですね」
場所はレスタの商業ギルド。二人の壮年男性が哀愁漂わせながらギルド長室の長机をはさみ向かい合って話をしていた。
燃えるような赤い髪をオールバックにした風格のある壮年の男は、商業ギルド長アラン。サラサの父。
シルクハットに丸眼鏡、白手袋にステッキ、革靴という英国紳士的な装いの猫獣人は副ギルド長のディーン。こちらはアイリスの父親だ。
二人は若い頃から行商人として切磋琢磨してきた。
そして今日イトシノユリナに今日二人の娘が旅立っていった。父親の彼らにとっては寂しいものだった。
「サラサにレスタを去るなら俺が店の面倒を見ようかと聞いたが断られた。弟子に店を任せて商会の支店にするそうだ。態度だけならもう大商人だわな」
「ふふ。うちのアイリスも全く同じことを言っていましたね」
「なんでうちの娘はこんなに激しいんだ?」
「……それは貴方が焚きつけたのでしょう。サラサお嬢様とアイリスがままごとをしていたら突然貴方が『商人たるものライバルが必要だ』と言い出して。それから二人に銀貨を渡し『これを十日以内により多く増やした方が勝ちだ。勝った方に金をやる』と」
「そうだったか? 覚えてねーな!」
「それがきっかけで商人を目指すようになったと記憶しておりますが?」
「じゃあ俺は間違ったことをしちゃいねえ」
「ええ全くもってその通りですね」
二人はのんびりとした手つきでお茶を啜る。
「そういやうちのサラサがマルゴと結婚するときアイリスが祝い金をもってきたな。サラサには内密にしてほしいとかなんだとか。カワイイとこあるじゃないの?」
「そうですか」
ディーンは目を細め嬉しそうな顔で猫髭を揺らす。
「ケイゴオクダとは何者なんでしょう。平民ながら騎士貴族になりましたが」
「ここだけの話な。町で突然出回りだしたファイアダガーとウォーターダガーは、実は全てケイゴオクダが作ったという噂がある。サラサもこれについてだけは口を割りやしねえ」
「そうですか。では我々もケイゴオクダの品定めをしておくべきでしょうね」
それから二人は幾度となくイトシノユリナに顔を出したのだった。




