k-319
ジュノからの手紙には、北のハイランデル王国との国境もモルス渓谷にて両軍は激突したと書いてあった。
しかし例年とは異なり、ハイランデル王国にはゼラリオン聖教国の軍勢とテイムモンスターと思われるモンスターの軍勢が多数参戦していたらしい。
準備不足のランカスタ王国軍はモルス渓谷の要衝バラン砦を破られ敗退。
一度戦線を押し下げることとなった。
ランカスタ王国軍は王都ラースティンの北の砦群を中心に布陣。
予断を許さない状況になっているとあった。
男爵軍からも援軍を送ってほしいと陛下からの正式な要請文も書いてあった。
俺はこの手紙の内容をサラサを始め、全員に共有することにした。もちろん内容は他言無用という条件つきで。
エルザがジュノを心配するあまり、胸に手をあて真っ青な顔をしている。
そりゃそうだよな。
男爵軍は第一軍から第三軍に分けて編成されている。
こちらも町の治安を守るための軍なので、町を空にするわけにはいかない。
なので、すぐに動かせる休暇中の第三軍を急遽王都ラースティンに向かわせることにし、その間の不足人員は民間の冒険者を雇うことにしたのだった。
出来たばかりのこの町が、冒険者たちでにぎわっていたのは幸いだった。
また広報の役割も担う商業ギルドを通じて、今回の異変について市民にも出来るだけ混乱が少なくなるよう配慮しつつ(いざという時の避難・防災マニュアルを配りつつ)、伝えることにしたのだった。
◇
翌朝になって、再びジュノが放ったクルルボが飛来した。続報だ。
敵軍は、「ランカスタ王国にいる勇者を差し出せ」と言っているとのこと。
ゼラリオン教の親玉である聖教国のギデオン教皇が勇者と対をなす《《アレ》》なのでは? と疑っていた俺は、シャーロットさんとの一件、そして今回の戦争に聖教国が加担しているという事実から、ほぼ確信めいたものを感じたのだった。
そして俺は、ジュノにターニャが勇者であることを場合によっては陛下に打ち明けてもいいと言っていた。
そしてジュノは陛下や王国軍のお偉方に対し、イトシノユリナで勇者を匿い育てている事実を伝えた。
軍議では、今回の敵の侵攻の目的は勇者にあるのではないか? という話になった。そして、敵は魔王と関わりがあるのではないか? という話にもなった。そんな奴らに勇者を引き渡すなどあり得ない。という話にもなったそうだ。
ジュノは勇者とそのお供の神獣を保護し、育成していることを軍議の場で言った。
結果、戦線を今のまま可能な限り維持しつつ、勇者・神獣に軍に参加してもらいつつ反転攻勢に出ようという話になったそうだ。
そして、詳しくは陛下からの要請文を読んでほしいと。
続いてゲルニカ陛下の筆跡で、「ヴォルフスザーン卿は勇者ターニャと神獣アッシュを連れ、軍に合流されたし」と要請文が書かれていたのだった。
手紙を読み終えた俺は、町の主要メンバーを天岩戸に呼び集めたのだった。




