k-308
装備の感触を楽しんでいると、秘書のメアリーさんが控えめなノックともにジュノの来訪を告げた。
慌ててポーズをやめた俺は、咳払い一つして「どうぞー」と努めて普通のテンションで返事をする。表情に出てないかな?
用件はきっと派遣部隊の件だろう。
メアリーさんがドアを開けると、ジュノとヒジンさん(ベヒーモス戦でジュノとコンビネーションアタックをかましてくれたファイター)が工房の中に入って来た。
うだるような暑さに思わず顔をしかめる二人。
ここじゃ話ができそうもないな。
鍛冶仕事もひと段落したので、俺は休憩室に移動し、メアリーさんの淹れてくれたアイスハーブティーを飲みながら話を聞くことにしたのだった。
◇
ふう、一仕事終えた後のハーブティーがしみるなあ。
俺が一息つくのを待っていたジュノは、陛下からの依頼の件には自分が部隊を率いて行くと言い出した。ヒジンさんも同行するのだそうだ。
毎年恒例の小競り合いにすぎないとはいえ男爵軍のメンツもある。陛下の言葉を鵜呑みにするのも浅はかだとのこと。
責任者が行ってこそ、後々後ろ指をさされることもない。貴族社会というのはそういうものなのだそうだ。
確かに王国軍と絡むとなると、交渉能力が必要となってくる。ジュノは戦闘力だけじゃなく、参謀としての能力も秀でている。
国王軍のお偉いさんたちとも上手くやってくれるだろう。
「わかった、国王軍との交渉事はジュノに任せたよ」
ただし、と俺はジェスチャー混じりの筆談で言葉を続ける。
今着ているベヒーモス装備をジュノに、俺と体格の似ているヒジンさんにもコボルトキング装備を進呈すること。(俺の分は余ってる素材でまた作ればいい)
連絡用のホワイトさんのハトを数羽持っていき、事細かく俺に連絡を寄こすこと。(ホワイトさんはこっちで待機)
派遣部隊には一人一体騎乗用ブルーウルフを連れていくこと。(いるのといないのとでは生還率が違うだろう)
そういくつか条件を伝えたのだった。
ちなみにベヒーモス装備の鑑定結果を書いた紙を読んだジュノは、目ん玉をひん剥いて喜んでいた。
ヒジンさんはヒジンさんでコボルトキング装備がもらえると知り、漢泣きしながら喜びを噛みしめていたよ。
「じゃあ、工房に戻るか」
俺は日本語とジェスチャーで二人にそう伝える。
俺と体格が似ているといっても完全にジャストサイズなわけじゃない。
そんな適当な「まあいっか」など、命を預ける道具に対してはありえないことだろう。
俺は二人を連れて工房に連れて行き、装備のサイズを微調整したのだった。




