k-303
砂地帯を抜け、丘を越えると海が見えてきた。
日本ではそんなに珍しくもない海だけど、久しぶりに見る海になんだか胸に込み上げてくるものがあった。
この辺もまだ未開地のはずなので、イトシノユリナと道をつないで港町でも作りたいな。
「……ん?」
そんなことを考えながら水平線を眺めていると、沖合にそんなに大きくもない船らしき影が見えた。
「サラサ、この辺って誰も住んでいないんじゃなかったっけ?」
俺がジェスチャーつきでそう聞くも、サラサも困惑気味な様子。
彼女も把握していないようだった。
よからぬ輩(密漁とか)の可能性もあるので、木陰に馬車を停め、船が戻る場所を木陰から観察することにしたのだった。
◇
結論から言うと、船の正体は密航者や密猟者というわけではなく、昔からこの辺に隠れ住んでいた人たちのものだった。
寂れた寒村という感じのこの場所は、サンチェスという村だった。
対応してくれたのは、腰の曲がった村長のタリフ翁だった。
一応俺がここら一帯の土地の領主ということになっているので、体裁は整えないといけないことをサラサ経由で説明してもらうことにした。
サラサがいてくれて助かった。領地みたいなシビアなことを俺の拙い筆談で説明したんじゃ争いの火種になるところだった。
タリフ翁によると、彼らはとある理由でこの土地に代々隠れ住んでいるとのことだった。
その理由を聞き驚きはしたものの、それはむしろ俺たちにとっては好ましいことだった。
むしろ隠れ住まなきゃいけないような事情を、よくこんな誰ともわからない人間に話す気になったなと思っていたら、タリフ翁と孫のシエラさんが二人してチラチラと俺がぶらさげている牙に時折視線を送っていたので、なるほどなと思った。
俺は彼らの隠れ住む “理由” を理解したこと、それを最大限尊重し絶対に侵したりはしないことを約束した。
その上で領主としてこの村にも徴税をしなければいけないが、もちろん金を搾り取るということではなく、町として発展させた上での課税であること、ベーシックインカムなど諸々の制度はこちらの村にも適用することを伝えた。
サラサは早速タリフ翁と魚介類の商談を始め、村長もほくほく顔。
隠れ住む “理由” さえ侵されないのであれば、豊かに暮らせるにこしたことはないのだろう。
タリフ翁は、村人を集めて皆に紹介したいと言ってきた。
「それはもちろんOKですけど、その前に……」
俺は “理由” を打ち明けてくれたタリフ翁に、こちらの “秘密” を明かすことにしたのだった。




