k-299
次の日のレベル上げは、東の海岸の方に行ってみようということになった。
ちょっとだけ強いモンスターが出るらしいし、もしかしたら未発見の海産物とかあるかもしれないとのこと。
そう言ったら「新しい海産物!? 行く行く!!」と食い気味にサラサがついてきた。
道中馬車の中で、ユリナさんがサラサに何かを相談していた。
するとサラサの目に涙がキラリ。
ユリナさんの頭を抱いてヨシヨシした。一体何だ?
ユリナさんに観音菩薩のような穏やかな表情を向けていたサラサは一転、俺を阿修羅の顔で睨んできた。
俺、何かしましたか……?
「ケッコンシキ」
サラサは阿修羅の顔のまま、一言そう言った。
ケッコンシキ……、血痕死鬼……、……あっ! ユリナさんと俺との結婚式か! そういや正式なやつはまだしてなかった!
タラリ冷や汗。
「もちろん考えてあるよ……!」
何も考えていなかった俺はそう返すしかなく、サラサはとりあえず引き下がってくれた。
でも、納得したという感じではなかった。
俺たち男からすると結婚式なんぞ、それこそ血痕死鬼と言い換えちゃうくらいどうでもいいもんで、入学式や成人式と同じようなもんだろ。あるから仕方なく行くくらいなもんでさ。なんで女はそんなにこだわるの? という世界七不思議のひとつに数えられる代物である。
だが女の子にとっては、「将来の夢はお嫁さん!」という常套句があるくらい、結婚式は超スペシャルなイベントなのである。ちなみに「将来の夢はお婿さん!」という常套句などないのはその証左に他ならない。
そもそも人生を生きる上で一番重要なテーマは、男の場合「勝利すること」(海賊王になるとかバンダム級世界王者になる、みたいなタイトルがほしいのが男)で、女の場合は「愛されること」と、価値観が全然違うのだ。少女漫画の題材が恋愛ばかりなのがそのことを物語っている。
ならばその「愛されること」のゴールでもある結婚式について、「あ、わすれてた」などと言おうものならどうなってしまうのか?
今ですらサラサが阿修羅の顔になっているのに、さらにどのような恐ろしい未来が待ち受けているのか。
なんか寒気がしてきたぞ。
俺は道中エンカウントしたグラスゴブリンをビードラの魔眼で錯乱石化させつつ、何か良い考えがないものか頭を悩ませたのだった。




