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【書籍化・コミカライズ化】商社マンの異世界サバイバル ~絶対人とはつるまねえ~  作者: 餡乃雲(あんのうん)


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k-298

 領主の仕事は家に帰ってからが本番だ。


 サラサたちに任せているとはいえ、最終的に俺が決済しないといけないこともある。


 時刻は日が傾きかけた頃。


 帰ったばかりの俺に秘書のメアリーさんが待ってましたと言わんばかりに、書類の束を差し出したのだった。


 俺は町の財政チェックや新事業の決済書類、個人的に出資している会社の書類に目を通し採用、不採用ボツ、再検討要提出とランカスタ語で書かれたハンコを押し捌いていったのだった。


 書類仕事の所要時間が1時間。


 役所的なハンコ文化は非効率だと思うけど、こちらの異世界にはDX導入なんて不可能だから仕方がないと思う俺であった。



 書類仕事を終え、アッシュ、ビードラとひとっ風呂浴びてくると、トクジュウさんのお店で修行しているお弟子さんが夕飯を作ってくれていた。


 トクジュウさんにお願いして店のお弟子さんに一日二回朝夜のローテーションで家でメシを作ってもらうようにお願いしたのだ。



 俺の隠れ家では毎日のように誰か彼かが来て宴会が開かれる。ちなみに今日はサラサ、マルゴ、ジュノ、ブラードさん(テイラーさんの工房の副工房長)が来ている。


 普段仕事の話を嫌がる俺も、その時間だけはオフモードになってくつろぎどんな話でも聞く。


 それをわかっているからなのか、多くの部下たちから背中をせっつかれているだろう俺の友人たちが毎日のように俺のところに来て、ときたま重要な案件が飲みの席で決まったりもする。



 俺もなるべく話す時間を確保したいので、専属料理人を確保したというわけだ。



 今日もジュノから男爵軍絡みの話(石塀にバリスタが欲しい)、マルゴから鍛冶工房区画の用水路拡充の話、サラサからベーシックインカム絡みの相談(住民が増えてギルドの口座許容量がパンクしそうとのこと)、テイラーさんの手足となっているブラードさんからは町建設計画の進捗と修正の相談をされた。


 皆ストレスでハゲないか心配だ。


 俺はランカスタ語で「あまり根を詰めすぎるな」と言いながら、酒をついでやる。


 ちなみに今飲んでいる酒は酒造会社の新作で梅酒のような果実酒。それをロックやソーダ割りにして楽しむ。


 友人たちは予想通りの反応をしてくれるから、それを見るのも酒造りの楽しみの一つだったりする。



 緊張がほぐれたあたりで、相談に答えてやる。


 俺も、飲みながら友人と気兼ねなく話すのは嫌いじゃない。真面目で普通は緊張するような話も、酒と雑談を交えれば円滑に進むというもの。


 俺は商社マン時代、むしろ接待の飲みの席が交渉事の主戦場となった場合が多かったなと酒に口をつけつつ思い出したのだった。




 料理人はいれども最後のシメのスープを出すのは俺の仕事だ。


 明日も激務が待ち構えているであろう友人たちが頑張れるように、俺はムレーヌ解毒草を使ったスープを作りだしてあげたのだった。

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