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天岩戸に帰ると、子狼の食卓(イトシノユリナ店)から料理人のトクジュウさんが宴会の仕込みに来てくれていた。
トクジュウさんは陛下お抱えのシェフだった人の一人で、王都に “食卓” を出店する際に寄こしてくれた人の一人。
シルバーの短髪に割烹着姿が似合ういぶし銀な感じの人だ。
今日はこないだの騒動で石化した連中の快気祝いということで、普段は誰も立ち入らせないここを一般開放して美味いメシでも振舞おうというわけだ。(神社みたい)
彼は早速昨日俺が作ったホタルイカ沖漬けを食べ、ふんすと鼻息荒くレシピを聞いてきたよ。
研究熱心なのは良いことだ。
こちらの生活にも若干慣れてきたのか、ユリナさんはサラサの依頼で服飾や小物のデザインの仕事をアトリエの一室で行い、ターニャは学校に通って子供たちと一緒に勉強中だ。
ターニャが通っている学校は “子狼の里” をこちらでも有志で寄付を募って作り、里の中に商業ギルドの有志で教師人材を一人派遣してもらい作ったものだ。
勉強したい者は誰でも可という謳い文句でやっているため、子供に混じって大人の姿もちらほらという感じになっているそう。
今日の宴会にはマルゴ、ジュノの他に、サラサとエルザ、キシュウ先生、石化から生還を遂げたホワイトさんらダンジョン探索メンバーも来る。
宴会で出すメニューは “食卓” で出している旬なメニューをトクジュウさんが腕によりをかけて準備してくれていた。
さて、みんなが来るまで特にすることもないし、ベヒーモスの素材でまだ使っていないものがあるので、それらで何を作るか考えるとしよう。
俺は鍛冶場にショイコを下しアッシュを床に下すと、一目散に良い匂いのするキッチンに駆けて行った。
「おいで、ビードラ」と言うと亜空間からビードラが出てきて、同じくアッシュの後を追いかけたのだった。
俺は炉に火を入れた後、鍛冶台にベヒーモスの鱗、皮、牙、ツノ、骨、火袋を並べて腕を組んでアイデアを練ることにした。
それから俺は来客が来たとターニャが呼びに来るまで、思考の海から浮上することはなかった。




