k-280
ベヒーモスの巣を見つけた俺たちはジュノに一度町に戻ってもらい、男爵軍の兵舎から10名と冒険者ギルドの解体屋を連れてきてもらった。
20メートルはあるベヒーモスの巨体をもっていくのは厳しいので、その場で解体する必要があった。
解体屋がベヒーモスの素材(骨、皮、鱗、ツノ、牙、魔眼)を切り分け、毒でダメになった肉はその場で燃やして処分した。
あとグラシエスノヴァと魔獣竜の息吹がぶつかり爆発した場所が大きく抉れており、そこの表面が水晶のように紫色に光っているのを部下がたまたま見つけた。
試しに鑑定してみると、
【魔竜晶:竜の魔力が結晶化した鉱石。竜の魔力を定着させるための触媒や装飾品など幅広い用途に使うことができる】
と、何やら良さそうなものであることが判明した。
これはあるもの全部持ち帰りたいところだけど、大爆発で剥き出しになった岩肌はかなり広範囲に及んでいた。
今日のところは持てる分だけにして、残りは日を改めて採掘することにしたのだった。
◇
町に戻った俺たちは、7体の石像を男爵軍の兵舎に運び込んだ。
「5レンジャー、阿波踊りにフィギュアスケートか……」
意識して見ないようにしているけど、間違って彼らの変顔をみてしまったもんなら、笑うに笑えない状況に呼吸困難になって困る。
ちなみに石像を見た他の兵士たちも、似たような状態になっていた。
と、そこへキシュウ先生がやってきた。
(町に着いて早々申し訳ないな……)
そう思い深々とお辞儀をすると、キシュウ先生は「ダイジョウブ」と言い真剣な表情で石化した7人の診断を始めた。
(死を看取るのも医者の仕事のうち。作法は心得ているようだ)
俺は羨望の眼差しでキシュウ先生に向けた。
「……ん?」
(よく見ると聴診器を石像に充てながらもう片方の手で横隔膜の辺りを押さえてプルプルしているぞ)
俺はそっぽを向いて口笛を吹きつつ、何も見なかったことにした。
診察後、俺は事の経緯を筆談で説明すると、キシュウ先生はおもむろに茶色い革のカバンからビンを取り出した。
ビンには【リバース草】と書かれていた。
中身を鑑定すると【リバース草(乾燥):毒を薬に、薬を毒に。薬効を反転させる性質をもつトリッキーな薬草】と出た。
キシュウ先生の言わんとすることが何となく読めてきたぞ。
毒をもって毒を制す、ということのような気がする。
そこで俺は【魔獣竜ベヒーモスの魔眼:精神恐怖、錯乱、石化の状態異常を引き起こす力をもつ魔眼】と鑑定結果を書いた紙を先生に見せてみた。
すると先生は、【魔竜晶:竜の魔力を定着化させるのに必要な触媒、錬金術Lv10が必要】と紙に書き加え、「マダマダダナ」とジェスチャーをしたのだった。
それからキシュウ先生は俺が錬金術Lv11だと知ると、「クスリ、ヤッテミロ」と俺に言ったのだった。




