k-275
ジュノの説明によると、なんでも男爵軍の近隣探査チームが町に流れる川の上流に巨大な滝のダンジョンを発見したそうだ。
で、探査チームが数名が中を調べに入ったところ、丸一日経っても未だに戻ってこないらしく。
今度は慎重に中を調べたところ、中は広大な地下空洞になっていてとてつもない巨大なモンスターの影が見えたところで撤退。
そこで俺のところにどうしたもんか報告と相談に来たようだ。
「あージュノ君、これをもっていきたまえ」
俺は倉庫に厳重に保管していた、例の激ヤヴァな毒(ゾディアック毒)をジュノに渡しポンポンと肩を叩いた。
だがジュノはその場を動かず、俺をジーっと見ている。
「ん? 何かまだ用かね?」
やだなあ、ジュノ君。
俺は見ての通り忙しいのだよ。
ハンモックで惰眠の続きをしないといけないからな。
「ケイゴノキバ、グラシエスノヴァ、ツヨイ」
ジュノはそう言って、怪訝な表情で俺の懐に入っている牙を指さしたのだった。
やですよぉ、旦那。アッシはしがない小市民。
そんなおっかねえモンスターと戦うなんて、アッシなんかにゃとてもとても。
そんなもんは、お強い騎士様にまかせるもんですぜ?
と、俺が全身全霊のなりきり小作農家ジェスチャーで「ダンジョンなんて絶対ヤダ!」と必死のプレゼンテーションをしていると、キッチン奥からエプロン姿の呆れ顔で出てきたユリナさんにしこたま怒られたのだった。
……まあ、先ほど冗談で自分のことを小市民と言ったけど、冒険者としての熟練度で言えば、ある意味本当のことだ。
帰ってこない探査チームにしたって、俺なんかよりも遥かにベテランの冒険者たちだ。
確かにジュノの言う通りグラシエスノヴァがあれば、大型モンスターとの戦いを有利に進めることができるかもしれないけど。
でもそれは領主が死ぬリスクを冒してでもやるべきことなのか。
おそらく普通の貴族なら絶対行かないし、他人を犠牲にして自分だけ助かろうとするような気がする。
正直俺だって死にたくないし、今もあんなモンスターだらけの穴に入りたがる奴らの気持ちが全く理解できない。
でもなあ……。
戻ってこない奴らの顔と名前、もう憶えちゃったんだよなあ。
奴らの帰りを待ってる奥さんや彼女さんたちのこと、俺知ってたりするんだよなあ。
極めつけはジュノの命令でダンジョンに入ったと言っても、ジュノに命令してるのは立場上俺。
ならこんな場所で無責任に惰眠をむさぼってるわけにはいかんということに、残念ながらなってしまうんだなこれが。
……うん。詰んだね、こりゃ。
「あぁぁあああ! わかったよ、助けに行けばいいんだろ!?」
そう半ばヤケクソ気味に叫ぶ俺を、ユリナさんは眩しそうに見ていた。
「やるからには、生存確率を最大まで上げてやる……」
俺は現状一番性能の良い武器防具とポーション類で装備を固め、ジュノと一緒に滝ダンジョンへと向かったのだった。




