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ヴォルフスザーン男爵軍114名。(新しい町の人口が5000人近くなったので少し増員した)
イトシノユリナの冒険者ギルドを拠点として登録している冒険者が30余名。
合計150名ほどが現在男爵家が動員できる兵士の数ということになる。
(冒険者は、登録拠点に外敵が襲来した場合には領主権限で動員できる取り決めになっている)
イトシノユリナに第3陣が到着した日の翌日。
俺は、領主の館とは別に小川のほとりに作ってもらった専用のアトリエ “天岩戸” に馬車の荷物を運び込んでいた。
“天岩戸” と神天照の隠れ家にちなんで命名したアトリエは「新しいアイテムや装備を作るから誰も立ち入れるな」とでも言って、俺が一人で悠々自適な生活を満喫するために作った、ワカホリにならないための施設だ。
中はハンモックや掘りごたつ式囲炉裏テーブル、足湯、露天風呂、岩盤浴、豪華キッチンセットなどなど、快適に過ごすための設備をてんこ盛り。
陶芸設備もある。
そもそも経営者や起業家は軍隊やロボットのように規則を守ってミスなく仕事をするのが大事というよりは、いかに独創的なビジネスアイデアをひねり出せるかみたいな、どちらかというとクリエイティブよりの能力が求められる。
例えばスティーブジョブスやイーロンマスクはいつもラフな格好をしていて、スマホやロケットを発明したけど、何かを発明するには自由であまりストレスのない職場環境が必要なのではないだろうか。
日本でも一流と呼ばれる会社の社長を思い浮かべてほしい。
凄く自由な生き方をしていると感じる人は多いはず。
ならば社長連中は皆そうすべきだと言いたいところだが、会社のトップが自由にするということは、それはそれで弊害があったりする。
例えばサラリーマン経験のあるみなさんは必ず一度は思ったことがあるはずだ。
“社長(部長、支社長)、スマホいじってないで仕事しろよ!” と。
たまたま俺も同じフロアーに社長がいたことがあって、そんなことを思っていたからよくわかる。
つまり “なんで俺の営業車がプレオであいつがベンツなんだ” とか “出張と言いつつ秘書室の前田さんと旅行しやがって” みたいな上っ面のことで醜く嫉妬することしかできない浅慮で頭の悪い我々一般庶民の目には、あえて会社のために自由な環境に身を置き斬新で崇高で天才的なビジネスアイデアを練っておられる社長様のことが、妬みやっかみフィルターを通すことで、何と「サボっている」ようにしか見えなくなってしまっているのである。
あゝ……、何と凡人たちの天才の足を引っ張ることしかできない愚かさよ……。
まあ、世の儚さを嘆いていても仕方がない。
対処法が一つだけあるとすれば、社長のサボってるような姿を社員に一切見せないことだ。
孫子の兵法(九地篇)にも「能く士卒の耳目を愚にして、之を知ること無からしむ」と書かれており、「部下たちに作戦を細かく知らせる必要はない、秘密主義に徹せよ」という意味の言葉がある。
これを起業家にあてはめると、天才的な閃きによってもたらされたビジネスアイデアはライバルにはもちろん味方にも秘匿するべきだ、ということになる。
世の会社に社長室が数多存在するのは、実はそんなカラクリがあってのことだったのである。
つまり俺は世の社長たちや孫子の教えにならい、部下から白い目で見られないための隠れ家を作ったということになる。
心の中で星の数ほど言い訳をした俺は、アッシュを抱えてリラックスしながらビジネスアイデアを練っていたら(ハンモックの寝心地を確かめていたら)、いつのまにかウトウトしていたのだった。
…
……
すると不意に、隠れ家の立ち入りを許した数少ない我が友人で、今の時間はヴォルフスザーン男爵軍の訓練や運用にあたっているはずのジュノがなぜか血相を変えてやってきたのだった。




