k-272
シャーロットさんと山賊オヤブンが説教部屋に籠ること数十分。
野太いオヤブンの大絶叫と彼女のものとはとても思えない嬌声が礼拝堂の中に響き渡っている。
しかし、山賊オヤブンの恐怖に満ちた絶叫は途中から歓喜の声へと変わっていった。
俺とジュノは茫然としながら礼拝堂の椅子に座っていた。
横目でジュノを見ると目が点になっており、前で膝ををつく山賊たちを見ると顔が青ざめていた。
すると不意に二重奏が止まり、お説教部屋のドアが開き二人が出てきた。
血だらけズタボロのオヤブン、淑やかな表情だが若干顔が紅潮しているシャーロットさん。
オヤブンは身なりこそ酷い有様だけど、恍惚とした表情を浮かべ全ての悟りを開いたかのようなつぶらな瞳をしていた。
よくよく見るとムチの生傷や、剥がされた爪の跡がある。
シャーロットさんはオヤブンを神像のある祭壇まで連れていき、オヤブンに「祈りを捧げなさい」的なことを言った。(と思う)
するとオヤブンは手鎖、足鎖をつけたまま五体投地して祈りの言葉のようなものを捧げた。
するとシャーロットさんは、オヤブンに錫杖をかざし、
「●×△■、●△ゼラリオン×△。●△△、ウンディーネ、●■■△、ウォーターヒール」
シャーロットさんがそういうと、錫杖が水色に発光。
それをオヤブンの肩に触れた瞬間、水色の光がオヤブンを包みみるみる傷が癒えていったのだった。
「××●△×!!! ▽◇●●ゼラリオン、×●!!! オオオ!!」
オヤブンは感激のあまりゴツイ両手で顔を覆い泣き崩れたのだった。
シャーロットさんはオヤブンの改心した様子に満足したのか、固唾を呑んで見守っていた俺たちを天使のような笑顔で振り返った。
「サ! ツギハドナタカシラ?」
こわいよ! ある意味、改心してるのかもしれないけども!!
残り10名ほどいる山賊たちカタカタと手足を震わせている。
シャーロットさんがこちらに一歩近づくたび、山賊たちはお互いに先を譲り合うような形で尻もちをつきながら後ずさっている。
しばらく次の子羊を選別していたシャーロットさんは、おもむろに山賊Cの首鎖をひっつかむと、「アナタニスルワ!」と言い放ち、説教部屋へと引きずって行ったのだった。
その日教会の礼拝堂には山賊たちの恐怖と歓喜の絶叫が鳴り響き続けた。
礼拝に来ていた敬虔な信徒やシスターたちはいつものことと素知らぬ顔。聞くと「シャーロット様の“お清め”が何か?」と逆に聞き返されてしまった。
(これ、税金払わないヤツとかにも絶対同じようなことやってるよね!?)
日が暮れるころには山賊たちもすっかり改心したようで、しばらく教会で丁稚奉公をするとのことだった。
この様子なら山賊たちが悪さをすることもないと思った俺とジュノは、今日のところは帰ることにした。
帰り道、俺とジュノは終始無言だった。




