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新しい町「イトシノユリナ」の建設予定地はレスタの町から馬車の足で20日程度かかる場所にあった。
俺も現場を見るべきなんだろうけど、20日×2で往復一か月以上かかるのは、レスタ側での調整も必要な以上かなり難しい。
どうすべきかと悩んだ末に役だったのが、前にハインリッヒから追われているときジュノがドニーさんに渡したサラサの魔道具だった。
商人間でとりかわされる契約書のような文書を道具に保存して、遠隔地間で共有できるという優れもの。
あの時は「バイエルン様が復権した」という事実を隣国にいる俺たちに知らせるために使われたのだけど、その利用法は何も文章に限ったものではない。
要はスマホの写真をL〇NEで相手に送るようなことも出来るということだ。
なのでその機能を利用して、レスタに居ながら建築作業の進捗を管理することにした。
建築の現場指揮は腹心の部下に任せ、テイラーさんは細かい打ち合わせのためにレスタに残る。
そして、魔道具で送られてきた現地の映像を見て俺たちの意見を取り入れつつ設計書を微調整する。
その傍ら、雑貨屋や料理屋、里の経営にも力を入れる。新しいお金で新しいビジネスも考える必要がある。
それらの資金があれば、新しい町にもっとお金をかけることができるからな。
子狼の里ですくすく成長している子供たちも、もうすぐ巣立ちを控えた年長組が新しい町に移住したいと言ってきた。
もちろん巣立った後の身の振り方をどうするかは子供の自由。
ただし条件は一般の移住者と一緒。そこは区別せず、土地はタダ同然で与えて後は自分で稼いでもらう。
それができるだけの魚の釣り方は教えているからな。
(一応巣立ちの餞別に、ファイアーダガーと水属性の付与された水筒をプレゼントすることにしているけど、それはまた別)
あとは折角レスタにいるのだから、貴族以外の鍛冶ギルド、魔道具ギルド、冒険者ギルド、個別の商人連中、教会、医者連中などなど各所への営業周りもしている。
今までは一個人の俺など相手にもされなかっただろうが、どこの世界でもやっぱり人は肩書とか権力には弱いものらしい。
どこに行っても自分が貴族であることを明かすと、みんな鼻を膨らませて前のめりで話を聞いてくれたよ。
この後はアルペンドレ男爵が治める隣のタイラントの町でも各所の営業に顔を出そうと思っている。
結構な数の移住希望者が出てきそうだ。




