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祝賀会で俺がやるべきことは決まった。
心がけることはたった一つ。
テングにならない、衆目の前では常に謙虚に、自分はあなたよりも下ですよ~と見せることである。
「勝って兜の緒を締めよ」とはよく言ったもので、テングになったが最後、凋落の始まりなのは今も昔も同じなのである。
うわ……、超絶めんどくさい。
俺は頭に強烈に響いてくる心の声になんとか蓋をしつつ、辺りを注意深く観察することにした。
まあレスタの町と関わることを決めたときに、こうなることは覚悟の上だったんだけどな。さて、怪しい奴はいないかな?
俺は次々と話しかけられるのを言葉がわからないふりをして躱しつつ(本当にわからないんだけど)、マフィア面のドン・アルカポネみたいなデブ野郎が葉巻を加えているのを見つけた。
そのマフィア野郎は何やらインドのコブラ使いみたいな感じの怪しいオジサン給仕と、峰〇二子みたいなスタイルを強調した美女と話してる。
怪しさ満点である。
嫌な予感のした俺は、ジルさんにお願いしてマイシルバースプーン・フォーク・ナイフを用意してもらった。
もちろん毒殺対策だ。
加えて足の速いトラ獣人のチャトラに家の倉庫まで走ってもらい、パルナ解毒ポーションをありったけ持ってきてもらった。
もう、ホストクラブの開店前に「ウ〇ンの力あるだけ用意しといて!!」みたいなノリだな。
俺はポーションビンを片手にもち、チャトラ、マヤと一緒に、
「いいかお前ら、貴族の料理には毒が盛られることがある。解毒ポーションを飲んでおけば、胃腸に膜が出来て死ににくいから覚えとけ!」
とホストの牛乳理論のようなウンチクをたれつつ、ゴクゴク。
俺をシショーと仰ぐチャトラとマヤはそれを真に受け、青い顔をしながら両手でビンをもちゴクゴク。
その様子をユリナさんが呆れ顔で見ていたのだった。
それからしばらくしてゲルニカ陛下お抱えの弦楽隊がゴージャスな雰囲気のクラシックを奏でだし、立食形式の祝賀会パーティが始まった。
弦楽器は元の世界の弦楽器とは微妙に形が異なるけど、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスみたいに大中小の区分けになっていて似ている部分もある、といった感じ。
会場全員にバイエルン様に卸していたシャンパンが振舞われており、それに口をつけていると、例のインドのコブラ使いみたいな感じの怪しいオジサン給仕がシルバートレーに料理の皿を乗せ俺に近づいてきて、お一つ如何ですか? と尋ねてきた。
「あ、頂きます」
皿の上には生ウニのパスタがオシャレに盛り付けてあったので、受け取った。
俺は念のためマイシルバーフォークとスプーンにパスタを巻き付けて放置。
そしてしばらくすると、銀食器が黒く変色し始めた。
これは毒に含まれた成分が銀と化学反応したものでほぼ間違いなさそうだ。
「ドニーさん、これを見てください」
俺は、皿の上で黒く変色した銀食器をドニーさんに見せ、毒だと説明。
慌てて逃げ出そうとしている怪しいオジサン給仕を指し、すぐに捕らえてもらった。
怪しいオジサン給仕はこれから地下牢で尋問されるそうで、とりあえずは安心とのこと。
マフィア野郎を見ると、葉巻を指で叩き割り悔しそうな表情を浮かべていた。
「ジルさん、あいつ誰ですか?」
「バロン・アルペンドレ〇△×」
近くにいた貴族社会に詳しいであろうジルさんにこっそり聞いてみたところ、あの怪しいマフィア野郎は何と男爵様であることが判明したのであった。
相手が貴族である以上、怪しくても証拠もなしに追及するわけにはいかない。下手をすれば返り討ちに会う危険すらある。
ちょっと眩暈がしてきたぞ?
「すみませんジルさん、ちょっと夜風にあたってきます……」
頭が痛くなってきた俺は、ジルさんに断ってルーフバルコニーで頭を休めることにした。
そんな俺に人影が静かに後ろから近づいていることに、俺は気がつけていなかったのだった。




