(モノローグ・ジル)自分の信じた道を歩くということ
教会で神へ一時の別れを告げ心を入れ替えた私は、バイエルン様の一介の執事として第二の人生を歩むことになった。
そんなある日のこと。
私はバイエルン様の身の回りの世話役として、身を粉にして働いていた。
バイエルン様のアフタヌーンティの準備を整え終わった私のところに、伝令兵が駆けてきた。
「何事か、騒々しい」
「ジル殿、大変です! 大規模なモンスターの群がこの町へ向けて侵攻中とのこと!!」
それから館の中は蜂の巣を突いたような騒ぎとなった。
兵士長のドニーを始め、多くの兵が予め決められた館内の指揮所に詰め、現場の南門の防衛策を練り始めた。
そして主戦場がレスタの南門であることが確定すると、指揮所を南門の兵士詰め所に移動した。
万が一のことを考えバイエルン様が何人かの将兵と共に館で待機。(万が一南門が陥落した場合には館を指揮所として使うことになる)
「しかし愚息が町の危険を知らせてきたとはな。……ああ、そうだジル。その真偽をそなたの目で確かめて来るがよい。今のお主の言葉であれば、我輩は信じることができるのでな?」
そうバイエルン様から直々の命を賜った私は、ドニーたち将校と共にレスタ南門へと向かったのだった。
南門前では “あの” ケイゴオクダが妻のユリナと何やらもめていた。
それをドニー兵士長がなだめているのを、私は生温かい目で見ることになった。
こんな善良そうな民を私は盲目的になって、陥れようとしたのだ。この罪は、これからの行動で償わなければならないだろう。
「ケイゴオクダ殿、色々とすまなかった……」
私は心から彼に謝罪をしたが、彼は「もういいです」と言うばかりだった。
レスタの南門の詰め所には満身創痍のハインリッヒ様がおられ、円卓に地図を広げて南門の将兵カイネルと何やら話し込んでいた。
近くに寄って聞くと、どのようにしてモンスターどもを迎撃するかという舌戦を繰り広げているようだった。
ハインリッヒ様は私たちが来たことなど意に介さず、作戦立案に没入しておられる様子。
ただそれもこれも、レスタの町をモンスターから守るため。
“ハインリッヒ様は、良い意味ですっかり変わられておられる……”
私の胸に、熱い何かが込み上げてきた。
そして私はただ感動して涙ぐむだけの老いぼれで終わるつもりはなかった。
心に決めた主の横に立つに相応しい男になると、あの絶望の淵で誓ったのだから。
「……失礼。私はバイエルン様の見聞役を務めるジルと申す。バイエルン様の命によりこちらにモンスター討伐の指揮所を設けることになった。兵士長のドニーとともにその作戦立案に参加させていただいても?」
私は腰に下げた愛刀の柄をきつく握りしめ背筋を正すと、円卓の議論に割って入ることにした。
「おお! ジル殿、それにドニー殿も来られたか! ワシ一人では心細いと思っておったところよ!!」
体に見合った迫力のある声を出すカイネル殿だった。
流石にその一言で我々に気づいたハインリッヒ様は、
「ジル、そしてケイゴオクダも来たか。……挨拶している時間などない。ドニー兵士長、ケイゴオクダ、お前たちの知恵も貸せ」
私を見て一瞬だけ表情を変えたが、そんな私情は一瞬で抑え込みやるべきことに集中したのだった。




