k-237
レスタに転がり込んできたハインリッヒの情報を確かめるため、斥候を出したそうなのだが、確かにモンスターの大軍がこの町に向けて侵攻してきているとのことだった。
南門前では兵士や冒険者たちが装備を整え戦闘準備をしていた。町中の冒険者たちも続々と集結してきている。
そんな中、俺とユリナさんは夫婦喧嘩の真っ最中だった。
だって、ユリナさんが「私も戦う」って言い出したからさ……。
「マアマア、オチツケ」
そこへ通りがかった兵士長のドニーさんが仲裁に入って来た。
そしてドニーさんは俺も作戦立案にかかわるなら、問題ないだろう? 的なことを言ってきた。
ドニーさん……、ひょっとしてユリナさんの麻痺弾や蜘蛛糸弾の威力を知ってるから、アテにしている……?
しかし、ドニーさんは俺の疑惑の目など物ともせず、ユリナさんと俺に期待の目を向けるだけだった。
「まあ、彼女の安全を確保するには、作戦に俺も関わるのがいいんでしょうけども……」
「アリガトウ!」
なんだか釈然としないまま、作戦立案に関わることになったのだった。
それから俺とユリナさんはドニーさんらと一緒に指揮所に移動した。
移動の中で、白髪の執事風の男から何やら頭を下げてきた。
ああ、ハインリッヒには執事さんがいたな。確か投獄されていた……。
「ひょっとして、ジルさんですか? もうハインリッヒのやったことは水に流したんでいいですよ」
俺はジェスチャー混じりで「許します」と伝えたのだった。
指揮所に入るとズタボロ状態のハインリッヒと門衛のおっちゃんがいて、何やら作戦を立てている様子だった。
ジルさんがハインリッヒたちに声をかけると、俺たちにもどうぞどうぞと椅子を差し出され歓迎されたのだった。
俺はそもそもこういった軍とか戦争とかには極力関わるつもりはなかったんだけど、俺とユリナさんの夫婦喧嘩をドニーさんが仲裁に入ってくれた流れで知恵を貸してくれと言われたので、渋々会議に参加せざるを得なかったのだ。
そりゃ俺だってどうすれば嫁の身の安全を確保できるか、知恵を絞るというものである。
ハインリッヒが言うには、どうやら敵はコボルトの上位種を中心に、サーペントやコカトリス、ヘルハウンドがいるらしい。
巨大なアーマーリザード(?)に乗ったコボルトキングがやばいという話になっている。
俺的にはコボルトなんかよりコカトリスのが強くない? と思うけど、その辺は実際に見てないので何とも。
編成された白兵戦中心の前衛部隊には冒険者ギルドマスターのシュラクさん、カイ先生、いつぞやのサーペント討伐で世話になった熟練冒険者パーティを配置。
遠距離攻撃部隊にはハン先生、ユリナさん。治療部隊にはキシュウ先生が配属された。
前衛中央に冒険者ギルドマスターのシュラクさん、前衛右翼にカイ先生、前衛左翼に熟練冒険者パーティを中心とした横列陣を南門前に敷くことになった。
前衛部隊は中央、右翼、左翼の他に遊撃部隊を設け、戦況に応じて機動的に動き、横や背後からの挟撃を仕掛ける役割を与えることにした。
遊撃部隊は機動性が大事なので、馬に乗れる者と乗れない者を分け、乗れる者は左翼騎馬遊撃、乗れない者は右翼歩兵遊撃という形にした。
この辺りの知識は戦国時代とか三国志とかを参考にして、作戦会議で俺が提案したものだ。
作戦としては、まず南門の壁際に前衛が陣取り敵をギリギリまで引き付ける。(アンクルスネアや落とし穴を敵の通りそうな場所に設置しておく)
そこへ遠距離攻撃部隊が町壁の上から敵に弓や魔法の雨を降らせる。
混乱した敵に前衛部隊が突撃を仕掛けつつ、直進する敵の横の回り込んだ左右の遊撃部隊が同時に攻撃を仕掛ける。
そして負傷兵は治療部隊が壁際に設置した天幕に避難させ治療する、という一連の流れを想定。
このように限られた時間の中で最善策を絞り出していると、マルゴとジュノが蒼の団の連中を引き連れて指揮所にやってきた。
「ケイゴ、ドウナッテイル?」
「ああマルゴか、丁度良かった。少し頼みがあるんだが……」
俺は万が一南門がモンスターに破られた場合北門から住民を逃がすべきで、Lv5以下の新米冒険者に住民の護衛をさせるべきだと作戦の一つとして提案していた。
この提案は採用され、1名の熟練兵と5名の新米冒険者が町の中に残り避難住民の護衛と先導を行うことになった。
問題はその人選だったのだが、5名の新米冒険者を蒼の団から出すことになったのだった。
それからまたしばらくして……。
「「シャチョー! オクガタ!」」
どこからか俺とユリナさんがここにいると聞きつけ、従業員のチャトラとマヤが駆けてきた。
彼らにも状況を伝え、万が一の場合には、店の荷物をまとめて皆でタイラントに避難するようにお願いした。
「ターニャとアッシュのこと、頼んだぞ」
「「シャチョ~」」
「ほれ泣くな。いざとなったらそれで皆を守るんだぞ」
目をウルウルさせている二人だけど、仕事の合間に剣やスリングショットの練習をしているので、ゴブリンくらいなら倒せると思う。
俺に店や従業員のことを託されたチャトラとマヤは、「ご武運を!」的なことを言い店に戻っていった。
だが戦闘準備はまだ調ってはいなかった。
俺たちが立てた作戦を遂行するためには、集まった冒険者たちを各部隊に適切に配置する必要があったが、それがまだできていない。
スピードがあるのか、魔法が得意なのか、弓が得意なのか。
集まった者の実力をテストして測っている時間はない。かと言って自己評価だけを元に配置するというのはかなり不安だ。
そのためには鑑定してステータスやスキルを把握するのが一番だということで、俺の鑑定スキルで実力不明な者のステータスとスキルを測り、どの部隊に配置するかを決めていったのだった。
【個体名:奥田圭吾は鑑定Lv5を取得しました】
戦う前なのにめっちゃ疲れた……。
多くの冒険者を鑑定してステータスを紙に書くという作業を繰り返していたら、鑑定のレベルが上がってしまったよ。
魔力を消費してしまったので、魔力回復ポーションを飲む俺。
カンカン カン カンカンカン……
全軍準備や配置を終えた頃、俺の耳に物見櫓の兵士が鳴らす警鐘の音が聞こえてきた。
どちらかと言うとスピードタイプの俺は左翼騎馬遊撃を任されている。
ロシナンテ(馬)に乗り、足早にそちらに移動すると同じスピードタイプのジュノ、ハインリッヒ、ジルさんの姿が見えた。
ここにはいないマルゴはスピードタイプというよりはパワータイプのため、中央前衛に配置された。
しばらく平原の向こうに目をこらしていると、遠くの方から土煙が上がっているのが見えたのだった。




