k-236
レスタの町は最近少しずつ春が来て、雪の合間からツクシっぽい黄色い植物が見え隠れしていた。
最近ターニャとアッシュは子狼の里に通って子供たちと一緒に勉強するようになっており、お昼休みには雪の下から生えてきている植物をみんなで元気一杯に掘り返して遊んでいた。
どうやら子供たちは机に向かって勉強するよりも、ツクシを掘り返している方が楽しいようだ。
「その元気分けてほしいわ……」
里の様子を見に来た俺は、ユリナさんがもたせてくれた弁当をほおばりながら、そんな様子をボーっと眺めていた。
今では事業を始めたばかりの忙しさも、ようやく落ち着いてきた。
カン カンカン カン カンカンカン
だが不意に、そんなほのぼのとした光景に相応しくない鐘の音が鼓膜を揺らした。
「これは門からの警鐘か?」
俺は南門にある櫓につけられた大きな鐘を思い出していた。
「ケイゴサン!! 〇××△、◇△〇〇×!!!」
すると、ボランティアで来ていた商業ギルド職員さんが俺の元に血相を変えてきた。
どうやら、南門にモンスターが攻めてきているらしい。(鐘の鳴り方でそう決まっているらしい)
「俺は南門に行ってみます。ラルテさんは子供たちと一緒に建物に隠れて、戸締りをしてください」
ターニャとアッシュに別れを告げた俺は、馬車に積んであった武器防具で戦闘準備。
グラシエスさんが渡してくれた牙がアッシュウルフのマントの内ポケットに入っているが、出している暇がないのでそのまま羽織る。
ロシナンテ(馬)に飛び乗った俺は、南門へと向かったのだった。
南門へ着いてみると、兵舎はハチの巣を突いたようになっていた。
そしてその輪の中には、泥だらけになったハインリッヒの姿があった。
「おい、何があった?」
披露した様子のハインリッヒに話しかけると、隣にいた兵士長のドニーさんが代わりに教えてくれた。
“モンスターの大軍、およそ400~500がレスタの町に向かってきている”
マジか。
モンスターって数百体規模で群れるもんなのか。
モンスター単体では今なら何とか戦えると思うけど、その数は流石に無理ゲーである。
そうこうしている間にも、蒼の団のメンバー他、蒼の団の面々が続々と門の前にやってきていた。
「ケイゴ!!」
「え!? ユリナさん?? 来ちゃダメだよ!!」
「ワタシモタタカウ!!」
俺が旅の道中、身の安全のために作った武器防具を身に纏っているユリナさん。
確かに彼女のスリングショットは戦力になるけど、妻を危険な戦闘はさせられない。
「絶対ダメだよ。大人しく家に隠れていて!」
「ワタシモタタカウ!」
ユリナさんはそう言って一歩も引くことはなかった。




