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【書籍化・コミカライズ化】商社マンの異世界サバイバル ~絶対人とはつるまねえ~  作者: 餡乃雲(あんのうん)


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(モノローグ・ハインリッヒ)己の腕一本で生きるということ

 ケイゴオクダの家を出た私は、手押し車にケイゴがくれた旅の荷物を乗せタイラントを目指した。



 集落に立ち寄っては食料を調達し、何とかタイラントにたどり着くことができた。


 ゴブリン、コボルトファイター、ジャイアントスパイダーなどなど、次から次へとモンスターに襲われたが、ケイゴに剣と弓を教わっていたおかげで何とか切り抜けることができた。



 今はもう貴族に戻ることなどどうでも良いと思っている自分がいる。



 それもあの不思議な男のおかげだろう。


 「しがらみ」にとらわれないあの男を見て、俺は考えを改めたのだ。


 人間は基本的に団結して強くなるものだが、常に組織の中で足の引っ張り合いをする生き物でもある。


 そして組織の考えに長く浸かっていると、しがらみの鎖で思考が囚われてしまい、自由な発想ができなくなっていることにすら気がつかない。



 あいつは強欲で傲慢な凝り固まった俺の思考を改めさせてくれた。



 全てを失った俺にケイゴオクダは、



「まずは自分の腕一本だけで生きてみろ。その上でまだ権力が欲しいならそうすればいい」



 と言ってくれた。



 言われたその時は悔しかったが、宿と飯を恵んでもらっている身で言い返しても滑稽なだけだと我慢した。



 それから俺は、ケイゴに言われたとおりにするのは癪だったが、とにかく自分一人で生きていける力を身に着けることにしたんだ。



 それをひたすら頑張ってみた結果、モンスターを倒して食材を手に入れ食うような、以前の俺では考えられないような「生きる力」を手に入れることができた。



 誰にも頼らない「自分の腕一本だけで生きる力」を手に入れると、今度はあれだけ執着していた権力や金への見方が変わってきた。


 それは当然だ。


 今までは権力や金を失えばただただ死んでいくだけだと思っていたのだから、執着もするというものだ。



 だが今は違う。


 そんなものなくたって生きていけるし、何なら他人の顔色をうかがう必要がないぶん気が楽だ。



 そう、俺は物理的な自由だけではなく思考の自由を手に入れたのだ。




 自由を手に入れた俺は、タイラントで冒険者として身を立てることにした。


 自分の腕一本で生きていく。


 そう決めた俺は、モンスターと戦うための武器防具を手に入れる必要があった。


 命を守るための道具なのだから、金はかけてもかけすぎということはない。



 そこで既知の仲であるタイラント貴族のルーファウスから金を引っ張ることにした。


 その貴族はグルメと女で贅沢をするのが至高の喜びというような男で、何人もの女を泣かせていると聞く。


 最近頭髪がさみしくなってきているのが悩みだそうで、例のポーションのことを話してやると最初は権力を失った俺をぞんざいに扱っていたくせに、目の色を変えやがった。



「ハインリッヒ‼ そのポーション、いくらでも金は出す! 絶対に手に入れろ! ほら前金だ!」



 汚い唾を飛ばすな。


 まあ、何も言わずとも金が手に入ったのは良かった。


 金貨袋には金貨500枚が入っていたのだった。



 俺はその金貨で武器防具を買い、タイラント近くの狩場でモンスターを狩っては冒険者ギルドに納入する、という生活を続けた。



 剣弓スキルや魔法も覚え、冒険者ランクも貴鉄ノーブルアイアンランクまで上げることができた。



 だが、女からモテることを至高の喜びとするルーファウスの部位欠損ポーションへの執着は凄まじく、矢のように来る催促が流石に鬱陶しくなってきた。



「まあ、金をもらえるなら依頼ということでこなしてやるか。ケイゴも素材を俺が採ってきたのであれば文句はあるまい」



 確かメインの素材はレッドグリズリーの睾丸だったな。


 レッドグリズリーは秋に出現するレアモンスターだが、レスタの森で冬眠しているところを狩ったという報告があったはず。


 レスタの森で修行がてら狩るのもいいだろう。


 今の俺を見たあいつの驚く顔が目に浮かぶようだ。



「ちょっと楽しみだな」



 俺は馬車を南に向けて歩かせながら、顔をほころばせたのだった。

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