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クリスマスパーティからしばらく経ち、少しずつ春の気配も感じ取れてきた頃、ようやく子狼の里と料理屋の建物が完成した。
里の運営も順調で、クリスマスパーティの後ドニーさんに「まだ建物ができていない」と伝えたら、パーティ会場に使った兵士団の天幕を「建物ができるまで」という条件付きで貸してくれた。
実際クリスマスパーティのときに感じたけど、幌用の薪ストーブ(煙突で煙を外に逃がせるようになっているやつ)を焚けば、中はかなり暖かくこんなに厚着するんじゃなかったと思うほどだった。
なので、暖かい天幕を使い、商業ギルドのスタッフが子供たちに勉強を教え始めていた。
里の建物は贅沢をする目的で作ったものではないので、雑貨店や料理屋のようにこだわりのデザイン建築というわけにはいかなかったけれども、そこはやはりテイラーさんの仕事だ。
「子狼の里」という名前に相応しい、可愛いデザインや遊び心が各所に散りばめられた建物ができていた。
ブランコや滑り台のような、「出来れば子供が遊べるような遊具も作ってほしい」という俺のオーダーにも完璧に応えてくれていた。
逆に料理屋の方は、お客様から金をとるに相応しい場所である必要があったので、めちゃくちゃこだわった。
デザインは子狼をモチーフに可愛くまとめつつも、料理はこの世界で見つけた様々な絶品食材(ウニ、ウナギ、フォアグラの味がするアレ、隣国から取り寄せた魚介類、醤油、生姜など)を使ったメニューを開発し提供。
素晴らしいデザインのお店と絶品料理のお店、俺は流行るだろうと確信していた。
建物のスペックは3階建て、1階オープンテラス席、2階宴会場、3階はVIPルームというふうに用途や客層に応じて使い分けられるように工夫。
VIPルームは内装が豪華なのはもちろんのこと(壁から滝が流れちゃってたりする)、訓練された従業員が常にスタンバイし世話をする。
その代わり他の階とは値段が一桁違うが、この世界の富裕層(つまり貴族)と一般庶民の貧富の格差を思えばそれでも安いくらいだ。
むしろVIP料金を作ることで一般料金を下げることができるので、経営者としてこれを外すわけにはいかなかった。
そして素晴らしいのは建物や調度品だけではない。
ユリナさんが作った衣装だ。
短い短髪が男らしいボクゼンさんは懐石料理屋の大将みたいなデザインの衛生的な格好できっちりしつつ、接客スタッフはユリナさんのデザインした品のある純正メイド的な衣装。
“蝶のゆりかご” から採用した美人なお姉さま方がそれを着込むとアラ不思議。どこぞのお姫様つき侍女かという雰囲気になった。
ユリナさんから聞いたところ、お化粧の仕方もお店に合わせて品重視メイクに変えたらしい。
「化粧一つでこんなに印象って変わるもんなんだなあ……」
蝶はサナギからとんでもなく美しく変化するけど、“蝶のゆりかご” とはよく言ったもんだ。
お店をオープンするにあたり、バイエルン様やギルドなど、お世話になった人たちに手紙を出したり、新しく開発した「回復アメ」一個つきのチラシを里の子供に配ってもらい町中に宣伝した。
こうして、俺の経営する料理屋 “子狼の食卓” 1号店のオープン初日がやってきたのだった。




