(モノローグ・キシュウ)医師の覚悟
蒼の団という自警団は、元々はマルゴたちがケイゴオクダを助けるために結成した団だ。
俺は仕事柄怪我をすることが多い彼らを定期的に訪問診療している。
そこで俺はケイゴオクダがやろうとしていることを聞いたのだった。
『スラム街の子供たちを救う』
ケイゴオクダはそんなことを言い出したのだ。
俺は、居ても立ってもいられなくなった。
彼のやろうとしていることは無謀だと言わざるを得ない。
そんな大それたことができるはずもない。
病気の子供がいたらどうするつもりだ?
彼に医療知識はないはずだ。
俺は盛大に動揺した。
ケイゴオクダは俺にも協力してくれと言ってきた。
俺は当然断った。
金が払えないなら受けられない、と。
ケイゴオクダは俺を責めることはなく、逆に彼の柔和な表情が俺の心にチクリと刺さった。
それから俺は、ケイゴオクダのプロジェクトとやらが気になって仕方がなかった。
物陰から様子を見たり、団員をつかまえ状況をさりげなく聞いてみたりもした。
テントには今にも死にそうな子供も運び込まれている。
「何やってる! 気道の確保できてないじゃないか!」
一人物陰で憤慨する俺を誰かが見ていたら、さぞ滑稽だったことだろう。
「何もせずに文句を言うだけなら誰でもできる」というやつである。
スキルはなくても誰かを助けようと懸命に行動している人の方が、できるのに何もやらずに文句ばっかり言っているヤツよりも1億倍尊いのは間違いない。
夕暮れの帰り道、俺は情けない気持ちでいっぱいだった。
色々な感情が頭の中をグルグルと回った。
俺も本当は毎日死んでいく子供たちを助けたかった。
でも目に見えない何者かに「不公平だ」と言って非難されるのが怖い。
だから金でしか治療しない公平な医師を装い、スラムの子供が死んでいくという惨状を見て見ぬふりを続けるしかなかった。
でもそれは言い訳だ。
助けられるのに助けなかったなら、俺はすぐに医者などと名乗るのは止めた方がいい。
気が付けば俺の足は家とは反対方向の……、ケイゴオクダが「子狼の里」と呼んでテントを並べている方向に向いていた。
子狼の里に近づくと、何やら騒がしい。
蒼の団で顔なじみのボランティアスタッフに聞いてみると、容態の悪い少女がテントに運び込まれたらしい。
俺の手には、常に携帯している医療用具が詰まった皮のカバン。
気が付けば俺は、容態が急変したという子供がいるテントへと向かって駆けだしていた。




