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従業員を雇ってから(ターニャを拾ってから)3日目の朝、ターニャの熱は引いており、立って動けるようになっていた。
軽く歩いた方がいいだろうと、ユリナさんがモコモコになるくらい過保護に防寒具を着せられたターニャが庭でアッシュを朝の散歩をさせていたよ。
3人と一匹で朝食を食べ終わると、チャトラとマヤが元気いっぱいでやってきた。
ちょっと今日は試したいことがある。俺は二人に店のことを任せ、工房の方に籠ることにしたのだった。
試したいこととは、ターニャの看病のときに紙に書きだした新商品の開発だ。
店が軌道に乗り始めたところで、そろそろ商品に新しいラインナップが欲しいと思っていたんだ。
新商品のアイデアとは、二酸化炭素を水に溶かした液体……「炭酸」を作ることだった。
俺は体中に魔力を巡らし、空気中の二酸化炭素を分離するイメージをする。
「ウインド」
そう唱えると、空気中の気体が僅かに動いた感覚があった。
そして、動いたと感じた空間に向け手をかざした俺は。
「アイス」
俺は、ひたすら気体を冷やすイメージをして魔力を込めた。
すると、水分が凍った通常の氷ではなく、テーブルの上に白い煙の出た100円玉大の固形物が転がった。
白い煙のようなものを発する白い物体。
それは紛れもなく二酸化炭素の固形物、「ドライアイス」だった。
俺は箸でドライアイスを掴むと、冷えた水の入ったビンに入れ蓋をして炭酸ガスが抜けないように密閉する。
そして、しばらくドライアイスが水に溶けるのを待ち、液体を口に含んでみた。
シュワシュワとした爽快感が口一杯に広がり喉を滑り落ちる感覚。
「お、これこれ」
それは、懐かしのソーダ水だった。
俺は同じ方法でバルゴの果実酒を「スパークリングワイン」に、ルミーの果実ジュースを「炭酸ジュース」にしてみた。
スパークリングワインを一口飲んでみると、シュワシュワとした爽快感と辛口な果実酒独特の味が口の中一杯に広がった。
「これはやばいぞ……」
余りの美味さに、バイエルン様や商業ギルドの動きが早くも気になる俺であった。
まあ気にしても仕方ないか……。
それからは、自分たちで楽しむ用にスパークリングワインと炭酸ジュースを、ひたすら作り続けたのだった。




