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雑貨店「子狼のまえかけ」完成祝いには、マルゴたちの他、ジョセフィーヌさん、パブ「蝶のゆりかご」のお姉さんたち、ボルガさん、テイラーさん、商業ギルド長でサラサ父のアランさん、エルザ父のバラックさん、兵士長ドニーさん、そして何とダメ元で招待したバイエルン様が来てくださった。
お祝いの言葉として考えた原稿をユリナさんに渡し、俺が日本語で「本日はお足元の悪い中~」的なことを述べたのに続いて、ユリナさんが通訳してくれた。
宴会は、店内スペースを使った立食形式。
壁にある陳列棚には、水属性を付与したオートで水が湧き続ける水筒(商品名「湧き水くんβ」)、火属性を付与したプレート仕込み中に入れた液体をお湯にできる水筒(商品名「ポカポカくんα」)を各10本ほど陳列してみた。
ちなみに商品名のα、βは試作したバージョンを現しており、バージョン3.0はγと命名される予定だ。
建物建築中にお店で何を売るのか色々考えたけど、まずマルゴやサラサに卸している商品と被っちゃだめだ。
そこで思いついたのが、以前ハインリッヒと開発した火属性温熱水筒とウォーターダガーの鞘を水筒にしたもの。
それらをお店の雰囲気にあった可愛いデザインに仕上げれば、それなりにいい商品になるかも? と思い、ユリナさんにも協力してもらって試作してみた。
蓋やボトルに看板と同じモチーフの子狼の意匠を入れてみたり、鉄色だと味気ないので店のカラーに合わせて油性の画材でパステルピンク、パステルオレンジ、モスグリーンの3色に塗ってみた。
うむ、我ながらこのお店にふさわしいファンシーな出来である。
それらの商品を飯を食ったり飲んだりしている皆さんの前で実演。バイエルン様にミランやバルゴの果実酒を温めてマグカップに注いであげたら、急に「ウオオオオオ!」と叫びながら泣きだして俺の腕をブンブンと振り回した。
大丈夫か? この人。
アランさんやボルガさんも、口をアングリと開けて驚いていたよ。
ファイアーダガーやウォーターダガーが既に売ってあるのだから、そんなに驚きの商品でもないだろうに。
それから全員から値段の交渉合戦が始まった。
オークションでもあるまいに、20本しかない商品を商業ギルドのアランさん、バイエルン様で取り合いに。
「いや、あの……、これお祝いに来てくれたみなさんにプレゼントしようと思ってたんですが……」
そう言ったらサラサにめっちゃ怒られた。
今現在の商品価格は暫定で金貨60枚となっており、そんな高価な商品をプレゼントするとは何事か!! ということらしい。
最終的にバイエルン様、商業ギルド長の話合いの結果、小売価格金貨50枚ということで落ち着いた。なお金額は暫定であり、作る商品数と需要を見て随時見直すと、二人で勝手に決めてしまった、
そんなことが、紙に書いてあった。
てか商売で、そんな他人が決めたルールに従う必要もなさそうなもんだが。
まあ、折角の祝いの日に水を差すのもなんだ。ここは大人しくしとこう。
ということで、商品はバイエルン様と商業ギルドで10本ずつお買い上げ。なんと金貨50枚×20本で金貨1000枚になってしまった。
バイエルン様がボルガさんに小切手を渡し、ボルガさんがA4くらいの鉄板らしきもので何か操作したところ、俺の商業ギルドカードに書いてある預金残高が変動。
小屋の売却代金金貨1200枚に1000枚追加され金貨2200枚になっていた。
「ええ……」
俺は、この建物の半分くらいの金額を軽く稼いでしまったことに戦慄を覚えたのだった。
サラサ曰く、これらの商品は行商人や冒険者が喉から手が出るほど欲しいというだけではなく、こんなに可愛い意匠は中々なく、オシャレに敏感な貴族連中に確実に高値で売れるだろうとのこと。
バイエルン様とアランさんの目がドルマークになっているのはそういうカラクリか……。
マルゴとサラサを見ると、歯ぎしりして悔しそうにしていた。
さすがに貴族と商業ギルドと商品は取り合えないというところだろう。
「みなさん落ち着いてください。俺も商品の在庫が全くお店にない状態は嫌ですし、そんなにあくせく働く気もないので、卸す数や商品の値段はこちらで決めさせて頂きます。あと後日今日お祝いに来てくれたみなさんには、同じものを作ってプレゼントしますので」
俺がそう言いユリナさんに通訳してもらうと、バイエルン様とアランさんが猛抗議。
だが「俺の作ったものをどうしようが俺の自由だろ」と言い納得してもらった。
最期に「湧き水くんβ」、「ポカポカくんα」のどちらが欲しいかを聞いて、この話は終わった。
属性付与した商品のアイデアは結構あるので、完成してもあまり商業ギルドやバイエルン様には知らせない方が良いかもな。
その後の宴会では、アランさんが「蝶のゆりかご」のお姉さま方にデレデレ。
それを見たサラサが凍てつく波動を発していた。
さらにそんなサラサを見たマルゴとジュノが真っ青になったりと、楽しい夜はふけていったのだった。




