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ボルガさん曰く、街はずれにあのファンシーな建物を作った建築家の工房があり、色とりどりのレンガを焼いているのだそうだ。
早速伺ってみたところ、倉庫を兼ねた工房の中にはモスグリーンやパステルオレンジといった、ほのぼのとした色合いのレンガが山高く積みあがっていた。
工房の奥を見ると、大きな斜めテーブルに図面を広げ図面とにらめっこしている人が一人。
その人が建築家のテイラー女史だった。
テイラーさんは言葉がわからないなりに通りで見かけた建物が好きだと伝えると、思いのほか喜んでくれた。
今は繁忙期ではないらしく、お店を建てることを快諾してくれた。
それからパステルカラーを基調としたユリナさんやアッシュに似合う可愛いお店にしたいこと、鍛冶や錬金、倉庫、畑もやるつもりだと彼女に伝えたところ、ラフスケッチで家のデザインを即興で書いて提示。
俺もユリナさんも、そのデザインを一目見て気に入った。
サラサも「私たちも新しいお家建てようかしら……」的なことをつぶやき、マルゴがギョッとした顔をしていたよ。マルゴ、大変だな。
ただその建物は職人こだわりの作品だけに、見積もり金額が金貨2000枚と値が張った。
商業ギルドに預けた金貨と丁度トントンになるのだが、商売を始めるにあたって少々心もとないかな……、と思っているとボルガさんが、「では今住んでいる小屋と土地を商業ギルドが金貨1000枚で買いましょう」と言ってくれた。
あんな場所に誰か住む人いるのか? と思っていると、防壁もしっかりしていて、案外需要はありそうだと言っていた。
レスタに引っ越した後は不要になるので、俺は小屋と土地を金貨1000枚で売ることにした。
あの小屋は人間嫌いな俺にとっての逃げ場所だった。
レスタの人たちと付き合うと決めた自分なりのけじめとして、手放すべきだと思った。
ということで、早速商業ギルドから発行してもらった小切手で手付の金貨500枚をテイラー女史に支払い、残りの金貨1500枚は建物完成時払いとした。
商業ギルドとの取引は本日付けの決済とし、土地建物代の金貨1500枚と今住んでいる土地と小屋の売却代金1000枚と相殺。
残りの金貨500枚の支払いを済ませ、預金残高は金貨2500枚となったのだった。
「とりあえず用事はこれで用事は全部かな? ユリナさん、アッシュ帰るよー」
俺は工房をウロチョロしていたアッシュを追いかけていたユリナさんに声をかけ、小屋に戻ることにした。
今は閑散期なので建築職人さんもフル動員できるとのことで、建物完成まで15日~20日くらいだそうだ。
こちらの世界の建築職人は土魔法や身体強化魔法の強みを生かして職につくことが多いそうで、やけに建物を作るのが早いと思ったら、そういうことだった。
なのであとは完成を楽しみに待つだけだ。
大枠の間取りやデザインを固め、ディティールは専門家に任せる。ディティールまで確認していたらきりがないので、あとは彼女に任せることにした。
俺たちはテイラー女史、マルゴ、サラサ、ボルガさんに礼を言い、レスタの町を後にしたのだった。




